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今日は学期末試験だ。
この日のために皆でたくさん勉強してきた。
ベルとリーマス先輩はリリー先輩に付きっきりで魔法薬学を教えてもらってたし、私は双子とピーター先輩と一緒にジェームズ先輩とシリウス先輩に教えてもらった。(先輩達は何故か私に対して教えがいがないと嘆いていた)
学年主席と次席の先輩達は、自分達の勉強のついでに私達にもわかりやすく教えてくれて、純粋にすごいと思う。
放課後は教授に質問に行ったし、準備はバッチリだ。

そして全ての試験が終わった時、やっと試験から解放された喜びを親友達と抱き合って喜んだ。
喜び過ぎて狂ったように教室を出ていく同級生の後を追って校舎の外に出れば、同じように喜ぶ先輩達を見つけて駆け寄る。
その際、はち切れたテンションでゴロゴロと芝生を転がる同級生や、何を思ったのか制服のまま湖に飛び込んだり、暴れ柳にちょっかいをかけている上級生を見たけどそっと目を逸らした。

「やあ、君達も終わったのかい?」
「はい!」

ジェームズ先輩が軽く手を上げて声を掛けてくれたので皆で大きく頷くと、ベルがリリー先輩に駆け寄って不安そうに尋ねる。

「リリー先輩どうしよう…私、おできを治す薬の調合で山嵐の針を入れてから右に3回まわしたのだけど、教科書のような色にならなかったの…!」
「そこは3回半だったわね。でも大丈夫よ、どこかの誰かみたいに爆発さえさせなきゃ及第点だわ」
「爆発…」

教科書をちらりとでも見ていれば、おできを治す薬を爆発させるのは逆に難しい。
だって、山嵐の針を入れるタイミングは「注意!」と真っ赤な文字で書いてあるんだから。
リリー先輩の言う誰かはよっぽど魔法薬学が苦手なんだなと思った時、横でリーマス先輩が口を開いた。

「リリー、そのネタはよしてくれ」

どこかの誰かとはリーマス先輩だったのか。
リーマス先輩を見上げると、目が合って苦笑いをされたので私も苦笑いを返した。

「で、でも、筆記でもきっとミスをしたわ…膨れ薬の」
「やめてベル」
「もう試験の話は聞きたくないわ」

ピシャリと双子に言われたベルは「あなた達は不安じゃないの!?留年するかもしれないのよ!?」と言うが、双子は肩を竦めると、声を揃えて言う。

「「全然」」
「なっ、」
「ねえエリー、私達に勉強を教えてくれた人たちは誰でしょう?」
「トップレベルの魔法薬学の才能を持った魔女と学年主席と次席の魔法使いよ、アミー」
「「留年なんてするわけないわ」」

そう言い切った双子に、ジェームズ先輩とシリウス先輩がニヤリと笑った。
ベルは何も言い返せないのか、1度だけため息をついて「…それもそうね」と笑う。

「でも意外だね。僕、アミーが一番試験のこと心配するかと思ってた」

ピーター先輩にそう言われたアミーは嬉しそうに「パパもママもテストの点数なんて気にしないもの!」と言ってエリーと一緒にピーター先輩に纒わり付く。
その姿はさながら、試験頑張ったから褒めて褒めて!と尻尾をふる子犬の様だと思った。

「オリヴィアは?」
「え?」

不意にリーマス先輩に呼ばれて顔を上げると、「初めての試験はどうだった?」と聞かれ、うーんと首を捻る。

「たぶん、留年しない程度には出来たと思います」
「「そうだろうね」」

リーマス先輩に答えたはずなのに、いつの間にか左右にいたジェームズ先輩とシリウス先輩が頷いた。
リーマス先輩が首を傾げて「どういう意味だい?」と聞く。
私もどうして?と左右を見上げた。

「だってオリヴィア、あんまり僕達に質問してこないし」
「しかも聞いてきたと思って説明したらすぐ理解しちまうしな」

先輩達は双子のように声を揃えて「「全く教えがいがない」」と大げさに首を振る。
すぐに理解出来たのは先輩達の教え方が上手だからなのにな。
肩を竦めると、リーマス先輩に頭を撫でられた。

「オリヴィアは頭が良いんだね」

久しぶり(試験勉強の前ぶり)に頭を撫でられて、思わずリーマス先輩に抱きつきたい衝動に駆られる。
流石に急に抱きつく訳にはいかないのでグッと我慢したのに、思わぬ衝撃でそれが叶った。

「オリヴィアは真面目だからね〜!」

ピーター先輩を散々構い終えたエリーがドンと私に突進してきたのだ。
その衝撃で私は「うっ!」となんとも可愛げのない声を出して、「おっと、」と支えてくれたリーマス先輩の胸に飛びこむ。

「ちょっとエリーっ」

慌てて首だけ後ろを向くと、私の背中に体重をかけているエリーがニヤリと笑った。

「いいなーオリヴィアはきっと学年一位ねー」

どうしてそこまで下手なのかと思うくらい棒読みのまま体重をかけ続けるエリーに、なるほど、と笑みを返してからリーマス先輩に擦り寄ると、先輩は戸惑った声を出す。

「えっと、エリー、?オリヴィアが苦しそうだけど…」
「いいないいなー箒にも乗れて勉強も出来ていいなーねーねー頭交換しないー?」
「エリーと交換はいやだな、頭が軽くなっちゃうもの」
「なにそれーまるで私の頭が空っぽみたいじゃないー」
「みたい、じゃなくてオリヴィアはそう言ってるのよー」

そんな先輩を無視して、アミーまで乗っかってリーマス先輩とくっつく時間を伸ばしてくれる。
存分にリーマス先輩を堪能して(私これ結構変態くさい…)いると、見兼ねたベルが呆れながらとうとう口を開いた。

「あなた達ね…いい加減にしなさい」

これ以上はリーマス先輩に迷惑をかけたくないので三人仲良く「はーい」と返事をして、最後に1度だけぎゅっと抱きついてから離れて顔を上げると、困った顔をしていると思ってたリーマス先輩は予想外に、目を見開いて固まっている。
あれっ、と思ってジェームズ先輩やシリウス先輩を振り向くと、ジェームズ先輩がいつかのようにパチンとウィンクした。

「…、リーマス先輩?」
「、え?、ああ、ごめん、なんでもないよ、」
「先輩、ごめんなさい、、」
「ん?えっと、なにが?」
「あの、抱きついてしまって、、ふざけすぎました、」

どこかできいた会話だなと思いながら謝ると、リーマス先輩はふわっと笑う。

「気にしないでよ。嬉しかったし…、!」

微笑んだリーマス先輩に胸が高鳴ったけれど、先輩はハッとした顔をして、顔色を悪くさせた。

「あ…、えっと、僕…マクゴナガルに呼ばれてるんだった、」
「え…」

慌てたように口早にそう言って、最後に私を一瞬苦々しい顔で見てからリーマス先輩は校舎に戻っていく。
1年近く居て、そんなふうに先輩に見られたのは初めてだった。
どうしよう、リーマス先輩を怒らせてしまったのかもしれない…。

「、先輩…怒って行ってしまったのかな…」
「オリヴィア、大丈夫。リーマスの事は僕に任せて」

今にも泣き出しそうな声で呟いた私の肩をポンと叩いたジェームズ先輩がリーマス先輩の後を追っていった。
そしてその日は結局、リーマス先輩と顔を合わせる事はなかった。


翌日、談話室に降りるとリーマス先輩が待ち構えていて、私は気まずさから思わずベルの後ろにサッと隠れたけど、リーマス先輩が少し傷付いた顔をしたのが見えてズキズキと胸が痛む。
そんな私を、ベルが引っ張ってリーマス先輩の前にグイッと押し出すと「私達、試験の結果を見てくるわ」と言って双子を連れて寮を出ていった。
他の寮生達もみんな試験結果の貼り紙を見に行っているので今この場には私とリーマス先輩だけ。

「オリヴィア、」

気まずい…と思っていたところに、リーマス先輩から声をかけられてビクッと肩を揺らす。
恐る恐るリーマス先輩を見上げると、先輩も気まずそうな顔をしていた。

「あー、その…昨日はごめん、」
「…いえ…私も、怒らせる様なことしてごめんなさい…」
「いや、違うんだ、怒ったんじゃなくて…、その…」

先輩は言いずらそうに「…戸惑っただけなんだ、」と言う。
私は首を傾げた。
戸惑ったとは、何に対して…

「、その、もしかしてだけど…、違ってたらすごい恥ずかしいんだけどさ、」
「…?」

「もしかして、オリヴィアの好きな人って…僕?」

ひゅっと息を飲んだ私に、先輩は違ったらごめんと眉を下げる。
ついにバレてしまったのか。

「、どうして…」
「、薄々、そうなんじゃないかって思ってて…、昨日、君が僕に抱きついた時、なんというか…そんな感じがした」
「……」
「それで、部屋に戻ってバレンタインのカードを見たら…名前のないカードとオリヴィアがくれたカードの字が似てたから」
「っ!」

甘かったのだ。
カモフラージュのカードを用意して誤魔化せると思っていたことに、カッと顔が熱くなる。
…もう、誤魔化せない。

「…先輩の、思った通り、」
「…」
「…私、先輩が好きです」

ついに告白した。
…してしまった。
若干ヤケクソになりながらしっかりと目を見て言ったけれど、先輩は逆に私から目を逸らす。
ズキリと胸が痛んだ。
いつも、褒めてくれる時や注意してくれる時、どんな時でも先輩はいつだって私の目をちゃんと見ていてくれたのに…。
目を逸らされて、思い知った。

「…好きなんです、」

わかってた事じゃないか、先輩が私をそういう対象に見てないことくらい。
なのに…先輩を困らせたくないのに、勝手に涙が零れてくる。
先輩はなるべく私を見ないようにしながら、「ごめん…」と言った。

「…僕は、君とは…」
「わかってます…」

私が子供だから、そういう対象に見てないから、だから…

「…私じゃ、無理なんですよね…」

ボロボロと涙が零れてくるのを、先輩はハンカチで優しく拭ってくれる。
ああ、もう…、無理ならそんなに優しくしないでほしい。

「…君は、もっと色んな人を見た方が良い。僕なんかより、素敵な人はたくさんいる」
「…私には、リーマス先輩が一番、素敵に見えます」

鼻をぐずぐずさせながら言うと、先輩はやっと目を合わせてくれた。
苦笑しながらもその目が優しくて、やっぱり好きだなと思う。

「君がまだ若いから、そう見えるだけだよ」

でも、振られたけど、まだ希望はある。
私が子供なのが理由なら、大人になってもまだこの気持ちがあるのなら、その時は…。

「…わかりました…」
「うん…ごめんね。ありがとう」
「…でも、まだ好きでいても、いいですか…?」

この気持ちまで否定しないで…と祈りながら先輩を見つめると、先輩はまた困った顔をしながらゆっくりと頷く。

「…僕は応えられないけど、…人を好きになるのはいい事だよ。…オリヴィアがいつか、誰かと幸せになれる日を祈ってる」

呼び止めてごめんね、と言い残して先輩は寮を出ていった。
ふらふらする足で部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。
涙が枯れ果てるんじゃないかと思う程とめどなく溢れてくるけれど、まだ好きでいさせてくれるんだ。
好きでいていいんだから、なら、

「…諦めない…」

心に誓って、両頬をバチンと叩いた。
これからだ。
リーマス先輩の隣に立っても恥ずかしくないくらい、素敵な女性になってやる。

その後部屋に戻ってきた親友達によれば、私は学年一位だったらしい。
来年からは勉強を教えてくれる先輩達はいないけれど、ひとまず勉強をたくさん頑張ってみよう。
それから、クィディッチも頑張って、一流の女性になれたら…また先輩に。