episode.1

 ずるい。足元にすり寄ってくる毛玉を撫でながら、羨望の眼差しを向ける。先日から、彼氏の元で暮らし始めた一匹の子猫。毛の長い種類だと教えてもらったが、雑種のようで正確な品種はわかっていない。黒っぽいトラ柄で、透き通ったガラス玉の様なきれいな瞳の女の子だ。瞳がきれいだと一目惚れだったらしい。
 とは言っても、ペットショップで購入することは嫌だったようで、保護猫カフェに足繫く通っていたようだ。あれだけ一緒に行きたいと言っていたのに、一度も行けなかったと後悔してももう遅い。普段は何をやるにもギリギリなくせに、子猫のお迎えが決まったとなるとすぐに行動に移していたのにムカついた。せっせと猫用品を買いあさり、部屋にはキャットタワーやらなんやらの空き箱が溢れている。大きめの箱は子猫の遊び場としてあえてとっているようだ。ところどころ、引っ掛かれたような跡が見える。

 撫でている人物がそんなことを考えているとはつゆ知らず、無防備にみゃーとお腹を見せている子猫。初対面だというのに、警戒心はどこに置いてきてしまったのか。この子は野生だったら生きていけない。そう呆れながら、そっとお腹に手を添えた。
 猫は好きだ。なんなら動物全般は好きな方で、溺愛する自信だってある。
でも、正直この子ばかり構われるのは腑に落ちない。ずっと彼にとっての1番だったのに、あっという間に奪われて何とも言えない気持ちになる。
 相手は猫だ。しかも、ふわふわの子猫。子猫相手に嫉妬しても仕方ない。
頭ではわかっているのに、無性に寂しくなってしまう。