1話

「えっと、ブレンドコーヒーで。佐々木さんは何にする?」
「うーん。じゃあ、クリームソーダで」

 頼んでしまった。しかも、砂糖とミルクはと聞かれてなんとなくいらないと言ってしまった。いつも飲み物は、クリームソーダかオレンジジュースしか頼まないというのに。声が上擦っていたのはバレていないだろうか。正面に座る彼女をちらっと盗み見る。いつもの制服姿とは違い、ふんわりとした真っ白のワンピースに髪を下している彼女は普段よりも大人びて見えた。胸元まで伸びた黒髪が光に当たりほんのりと青みを帯びてキラキラと輝く。メニューを見ていたはずの彼女がふっと視線を上げたので、慌てて目をそらせた。

 ことの発端は3日前。何の偶然かクラスメイトの佐々木さんとカフェに行くという緊急クエストが発注されたのだ。前の席の佐々木さんとは、席替えで今の席になるまでひとことも話したことはなかった。クラスに一人はいる、本が好きな静かな子。そんなイメージだった。授業でペアを組まされるまでは。いつも本を読んでいる本が実は大半が児童書ということや、弟がいる関係で毎週日曜日は朝から戦隊モノと仮面ライダーのシリーズを見ていることを初めて知った。
そして、実はカフェ巡りが趣味だということも。

「神尾くんは、カフェ巡りって興味ある?」
「まあ、それなりに……」

 全くと言っていいほど興味は無いくせに、なんだか否定するのも違う気がして曖昧に答えてしまう。本当はコーヒーなんて数える程度しか飲んだことないし、砂糖を二本入れないと飲めないのに。

「最近、コーヒーにハマってるんだよね」

 あまり話したことのないクラスメイトとの会話でなんとか間を持たせたくて。女の子にいいところを見せたい気持ちと、思春期特有の少しでも大人っぽく見られたい気持ちが交錯して。しょうもない見栄を張ってしまった。そして、コーヒーにハマっていると言ってしまった手前、もう後戻りが出来なくて現在に至る。