犬の絵が描いてあるスウェットに、スカジャンを羽織ったあの人がやって来た。名前もインパクトがあって、確か滑皮さんと言った。彼はいつものように二人の弟分を引き連れ、ホールのど真ん中を歩き、奥の席に座る。店長はすぐに、滑皮さんのお気に入りのミレイさんを呼ぶ。

「ガラ悪いなァ、今の。見た?」
「え? ごめんなさい、何?」
「今通ったでしょ、チンピラ三人組」

 こういう人たちが来て、すぐ反応する客はめんどい。通ったけど、そうだねなんて言えるわけないでしょ。

「なまえちゃんは、ああいうのから指名入ったりするの?」
「えー? どうでしょうね」
「お? 怪しいねェ。俺も負けないようにいっぱい指名入れないとなァ」
「うふふ、ありがとうございます」

 上手くはぐらかして話を流すけど、この人いつ来てもやっぱり面倒臭いなあ。なんかさっきより距離が近い気がするし――そう思っていた矢先、太腿を撫でてくるゴツゴツした手。

「えっ!? ちょっと……」
「いいじゃん、このくらいサービスのうちでしょ?」
「やめてくださいよォ……」

 酷い言い草に呆気にとられそうになったが、負けじと抵抗する。しかし、それで火が着いたのか、太腿を触っていた手は段々エスカレートし、更にもう片方の手はガッツリ胸を揉んで来た。信じられない!

「オイ、おっさん何してンの」

 誰でもいいから早く助けて!そんなわたしの異変にいち早く気付き、助けてくれたのは、同席していたヘルプの子でも、ボーイでも、店長でもなく、あの人たちだった。

「ヒィッ!! さっきの!」
「ちょっと表出ろよ」
「なっ、離せェ!」

 梶尾さんがドスの効いた声で脅し、鳶田さんは、男が暴れたり逃げたりしないように取り押さえる。先にその三人が出て行った後、滑皮さんもタバコを吸いながら、ネオンが眩しい暴力的なアウトサイドへ繰り出して行った。





2016-12-05


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