お互い好きで同棲をしていても、たまには一人になりたいときもある。何の予定もない休日の午後は、コーヒーを淹れ、自室で好きな曲を流して本を読む。一章読み終わって、ふと時間を見る。まだこんなもんかと思い、再び活字に目を通す。

「おう、なまえ! 入るぞ」

 すると、邪魔が入った。さっきまでリビングのソファで昼寝をしていた彼が入ってきた。多分、一人でいるのがつまらないんだろう。大体わたしが部屋にこもっていると彼はやって来て、わたしの部屋を物色する。鍵でも付けようかな。

「これ何」
「ん? ああ、友達に貰った」

 さり気なく部屋に入るけど、彼はいつだって抜け目ない。前に見た記憶がない物はすぐチェックが入る。“男の影がないか確かめる”ためだ。そういえば前、女は信用できないとか言っていたし、過去の彼に何があったのか知らないけど、意外と嫉妬深い性格なのかもしれない。

「あ? 友達って男?」
「そうだけど何?」

 ちょっと意地悪したくなって、口角の上がった顔が見られないように、本で隠しながら生意気そうにそう言ってみた。すると彼は、チッと舌打ちしてわたしを睨みつける。あーあ、怒っちゃった。本当に短気だなあ。

「何お前、ムカつくなあ」
「何? 急に」
「どこの馬の骨か分からねェ野郎と宜しくやっといて、その態度はねーだろ」

 男の存在を匂わせるのは、付き合って初めての試みだった。案の定怒った。男って言ってもただの友達なのに。まあ、嘘なんだけどね。

「そう言われてもただの友達だし」
「ふーん……」

 いじけたような素振りで、“架空”の男友達から貰った香水を、ずっと手に持って眺める彼。怒るのは予想できたけど、意外にショックでもあったのかもしれない。

「だから安心して? ていうか一応プライベートな場だからノックくらいしてほしいな」

 一番言いたかったことをズバッと告げ、残り少ないコーヒーを飲み干す。何だか清々しい気分だ。しかし、彼はすぐにこう言ってのけた。「プライベートだあ? ンなもんあってないようなもんだろ」と。なのでわたしは決意したのだ。今度彼の部屋に入って、キャバクラの女の子から貰ったネクタイの本数を数えてやろうと。プライベートに、国境はない。





2017-02-27


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