むこう側を花園と嘯く

不思議なものだ。
違う世界と言えど会話などに支障はなく、目の前の男とは難なく言葉を通わせることはできている。テーブルに置かれたメニュー表の文字を追えば、それも問題なく理解できる。単語さえ覚えていけば文章の意味も自然と理解できるだろうし、存在する物質にそう大差もない。ただ唯一気になることがあるとするならば、ここへ来て一度も車や飛行機、バイク等の機械類を見ていない。公共の交通機関の発展が乏しいようだが、海列車というものは通るらしい。

「ナマエちゃんの連れてる、あー⋯さっきの、生き物は何つー生き物なの?」
「先程の子はボーマンダという、それがどうした?」
「見た事ねーからな、変わった形してたし」

奴が質問し私が答え、そして私が質問を返しそれに答えるという方式で話を進めていたがやはり、ポケモンの認識は皆無。この世界にはポケモンという概念そのものがない、異世界であることは確定だろう。

「⋯私達の世界では不思議な生き物を総じてポケットモンスターと呼んでいる」
「ポケット⋯?」
「現在確認されている種は1000種以上、そして今も尚増え続けている」

青雉はその種族の多さに目を見開く、種族の多さも然ることながら棲息する数も尋常ではないため途轍もない数になるだろう。私達の世界は如何にポケモン達で溢れていたか⋯再確認させられる。

「あー⋯向こうではどんな生活送ってたの」
「世界各地を旅して回っていた」
「それが何でこんなところまで?」
「説明はできん⋯」

私の唯一の敵⋯思想、目的、野望等の為にポケモン達を悪用し世界を支配しようと企むロケット団や過激派環境保護団体のマグマ団やアクア団、そして今回私をこの世界へ誘う原因を作ったギンガ団。この世界へ来る前、残党狩りでアジト跡地に乗り込んだものの幹部との戦闘中までの記憶があることから原因は十中八九、奴等だろう。

「それより、貴様が海兵ということは取り締まる対象がいるのだろう?海賊でもいるのか」
「ご名答、今は大海賊時代なんて言われてる」
「!」

つまりこの世界での移動手段は船が主流、あれだけの広大な海を船だけで渡っているとは驚愕だ。何せ私ですら方角をまともに把握しきれないというのに、それをやってのけるということは何か方法がある筈。

「成程、あのコンパス⋯島の磁気を頼りに航海しているということか⋯」
「まぁ、それも簡単にはいかないけどな」

なんと不便極まりない、聞くところによると船以外の手段はないという⋯おまけに島ごとに気候天候が目まぐるしく変わるとか。私達にとって空中は唯一の移動手段というわけではないが、ボーマンダとフライゴンの飛行による移動をメインにしているためは非常に厄介な問題だ、水ポケモンに頼ることもできるが得策じゃない。

「今度は俺、恋人いる?」
「⋯今この状況で必要な質問か?」
「まーなんだ、立候補したいからな」
「ノーコメント」
「あっ、ずるい」

緊張感のなさに再び拍子抜けする。一体何を考えているのやら、相手の思考を読むことに長けていた私がそれすらも放棄せざるを得ない。どうせ本気ではないだろう。

「貴様のように力を持つ者は、この世界にまだいるのか?」
「正確に言うと、俺の能力はこの世界に一つだけ⋯能力者は沢山いるよ」

自然ロギア系、超人パラミシア系、動物ゾオン系というタイプに分かれているという。海賊達にも能力者はいるものの、この能力を持つ者達には弱点がある。

「カナヅチ、か」
「そう、悪魔の実は海の悪魔の化身って言われてるのにね」

風呂なんかも一苦労だと愚痴を零しているが、目の前の男はヒエヒエの実を食べた氷結人間。弱点である海を克服している時点で最強と言っても過言ではない。この状況下であるにも関わらず知的好奇心が大いに擽られる、世界に唯一無二であることとその能力を得るための大きな代償。所有者が死亡した後、必ずこの世界のどこかに出現するというのも全く理解できないが悪魔の実というものが存在しているのには大きな意味がある。
この男、確か海軍のそれなりの地位だと推測するが軍というものはそれなりに機密情報など保持している筈、もしくは研究機関なども設けてるに違いない。ポケモン以上に摩訶不思議な存在を目の当たりにして、これ以上になく胸が踊る。

「ねぇナマエちゃん」
「なんだ」
「よかったら海軍本部に来ない?」
「!」

願ってもない申し出だった、しかし青雉にとってこの申し出のメリットは何だろうか。未確認生命体の保護、もしくはこちらも研究対象として見られているのか。危険視されているのは確かだろうが、軍に連れていくということは同時に情報漏洩のデメリットがあるのは理解しているのだろうか。だがこちらも早く自分の世界にも帰りたいし、その方法も捜索しなければならない。行くだけ行ってみるか⋯何かあればサーナイトのテレポートや飛行による遁走は可能だろう。

「分かった、行こう」