煉瓦の道を辿って

>>玄武くんの進路捏造・年齢操作



彼の存在を証明する資料や英語試験の証明書、エッセイを間違いなく揃えるために、社長だけでなくS.E.Mやドラスタ、クリスさんまで巻き込んで奔走したのが遠い昔のようだった。今日、事務所にやってきた玄武くんは待ち構えていた事務所の面々に少し驚いた顔をした後にくちもとを緩めた。
「玄武」
「ああ、相棒」
待ちきれない朱雀くんの声に応じて、玄武くんはまっすぐ私たちを見た。みんなの緊張感が最大限に高まって、心臓が口から出そうな子たちが何人もいた。

受かった、という息を吐くような玄武くんの報告に事務所はたちまちお祭り騒ぎになって、感動しいのアイドルたちがよかったなあ!と肩を組んでわんわん泣いた。

玄武くんは手伝ってくれた大人たちに順にお礼を言って、彼のために奔走した大人たちも彼を労った。わかってるだろうがここはゴールじゃないからこれから一層頑張りなさいというようなことを薫さんが言って、次郎さんが俺たちよりよっぽど先生みたいなこと言ってるねと緊張にこわばった玄武くんの肩をさすった。今からもうひと頑張りですね、とクリスさんが優しく微笑んだので、玄武くんは柔らかく緩んでいたくちもとをまた引き締めた。

そのまま大人たちに押し出されるようにして玄武くんはふらふらと社長室へ向かい、私と朱雀くんは視線を交わすとそれを静かに追った。玄武くんも、それを追う私達も、夢の中にいるみたいにふわふわとした足取りだった。

社長室は事務所の喧騒が嘘みたいに静まり返っていて、社長は待ち構え、賢ちゃんが書類を並べる音だけがしていた。

社長は一言玄武くんの頑張りを労ったあとにいくつかの書類を渡した。書類に刻まれた”4年間の活動停止”という文字は今日までに何度も見たというのに、心臓が大きく音を立てた。朱雀くんが私の動揺を察したように黙って私の肩に手を置いた。

社長と玄武くんが、並んだ書類をひとつひとつ順に確認して、何も間違いのないことを確認すると私はあらかじめ用意しておいた文面を事務所のブログにアップして、賢ちゃんが記事のリンクをSNSに投稿した。ご報告、で始まる神速一魂のこれからについての文面は何度も何度も読み返し、こういうことに長けた事務所の面々から添削を受けたものだ。増えていく閲覧数からは目を背けて、無事アップされたことだけ確かめた。

要らなくなった書類を綺麗に重ねた社長が「プロデューサーから何か一言」と私を指名して、そうしてようやく玄武くんと目があった。努力が実って名門大学への進学が決まったのに、どこかぼんやりとした表情で私を見ている。合格おめでとうと言った言葉は震えて、肩に置かれたままの朱雀くんの手に力がこもった。ほかに何も言えなかった私の代わりに社長が悔いのないように……という言葉を続けて、玄武くんは重々しく頷いた。

こうして玄武くんは、アメリカの名門大学への進学を決め、時を同じくして神速一魂は4年間の活動休止を発表した。


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