褪せぬ間に
「何か隠し事をしているな」
「ウッ」
会って五分で疑われた。汐さんは静かに箸を置いて、見ればわかると険しい顔をした。ついに心まで読めるようになりましたね、と驚いた顔をしてみれば茶化すなと一蹴される。
「何も隠していません」
「お前は嘘をつくのも下手だな……」
決して汐さんがポーカーフェイスが得意で常々冷静というわけではない。むしろ怒りやすく気は短いと思うが、汐さんが見破るほどわかりやすかっただろうか。私は正直に謝ろうと思って姿勢を正した。
「けいたいが気になるなら」
「?」
「気にせずに見ろ。部の連絡か?」
「ああ、携帯……すみません、お言葉に甘えて」
機械音痴の汐さんはスマホを携帯とよびゲーム機の類は全部ぴこぴこあるいはでーえすと呼ぶ。いつの人だと日研内では笑っているが本人は大真面目だ。しかしブルーレイ再生くらいは流石にそろそろ覚えてほしい。
私が待っていたのは、部員の連絡とは言えども穂からの私的な連絡だった。メッセージが複数にふざけたスタンプがおまけで付いている。去年はやったアニメのキャラクターだ。(ちっすちっすぶちょーに例のブツ渡せました?ってか例のブツっていい方やらしくないです?ワロタまじ卍)普段の穂の顔からはこの文面を再生するのは難しいけどゲーム内チャットとかでは丸目くんと2人してネットスラング吐きまくってると聞くので、穂ほど人は見かけによらないという言葉を体現しているやつはいないと思う。私はメッセージ画面を閉じてカバンの中身を見た。お気に入りの何も入らないカバンをやめてわざわざ大きめのカバンにしてきたのはこういうわけである。
「それで、悩みごとは解決したのか?」
「えっ」
「何か悩んでいたんだろう。話したらどうだ」
「ええっとそのぉ」
「はっきりしないか」
汐さんの中でどうやら隠し事は悩み事に変わったらしかった。私はチラチラとカバンと汐さんの間で視線を彷徨わせ、汐さんは眉をひそめた。
「ど、どうやって誕生日プレゼントを渡そうかと思って……」
「ぷれぜんと」
「そうです」
「だれの」
「やだ、汐さん自分の誕生日も忘れたんですか」
「わ、私のか!」
汐さんはぎょっとして途端に視線を彷徨わせた。さっきの私みたいだ。
「悩むまでもなく、素直に渡せばよかったんですよね。はい、お誕生日おめでとうございます」
汐さんは消え入りそうな声でむにゃむにゃと礼を言ったので私は少し意外に思った。平成も終わるというのに、武士道を迷わず進む汐さんらしからぬはっきりとしなさだ。
「……何?」
「私は、名前のことをよく見ていると思っていたがどうやら違ったらしい」
汐さんはため息をついて私と視線を合わせた。よく見ている、だなんてそれはなんだか嬉しい。いつも私ばっかり好きなのだと思っていたから不思議な感じもする。
「お前の悩み事も見抜けないとは……」
「でも、こうやって予想外で動揺するくらいよーく私のこと見ていてくれたってことですよね」
「お、おおおお前はよくそんなことを言えるな!?」
「汐さんのこと、好きなのでいくらでも言えます!」
「名前……」
「はい」
「わ、私もお前のことが…………す、好きだ」
顔を真っ赤にしている汐さんを見て私は姿勢を正した。あの日本男児接吻など高校生にはまだ早い愛の語らいなど軟弱な……という汐さんがそれをはっきりと口にしたのは初めてで、だんだん混乱していた脳が「好きだ」を受け入れて理解して、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。
「汐さんがそんなこと言ってくれるなんて……夢みたいです」
嬉しくて精一杯微笑むと目の前で汐さんが爆発した。初心な汐さんにはいきなりの恋愛成分の過剰摂取でキャパシティオーバーだったらしい。
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