愛のしらべ

「政宗さん、初売り行かないんですね」
「ああ?あんな人混み行きてえのか?」
見ろ、あの大混雑をと指さされたニュースは仙台初売りの大賑わいを映し、政宗さんは呆れながらも楽しそうに眺めている。さすがは景品法さえ除けられる仙台初売り、と感心していたら「欲しいものならあとでこの人混みのはけた頃にでも仙台に行って、なんだって買ってやるよ。名前は何が欲しい?」と微笑むので呆れてしまう。さすが大金持ちは違うなあと内心呟いてみかんに手を伸ばす。
「なんでも与えられているので今更欲しいものもないな……」
「言ってくれる」
年の瀬、仕事を納めた政宗さんにピックアップされて東京から東北新幹線に乗せられ、東京よりはるかに寒い地に降り立ちそこからまたさらに寒いところへ運ばれて、気付いた時には雪の積もった門の前に小十郎さんが待ち構えていた。政宗さんの実家(が持つ家のひとつ)に連れて行かれたのだとそこでようやく気付き、今更ひとりで帰る気もなく雪で閉ざされた豪邸で年を越した。小十郎さんは政宗さんの指示で一足先に仕事を納め、年末年始の蕎麦やら御節の用意に奔走していたらしく、合流した政宗さんも私を炬燵に押し込むや否や自ら御節の支度に加勢したのだから肩身の狭さと言ったらなかった。奥州流の持て成しをしてやる、と息巻く政宗さんを見れば大人しく炬燵に引っ込むしかなく私は年末年始本当に何もしなかった。小十郎さんにさえ、政宗様のご意向だと凄まれて仕舞えばだらだらする大義名分は十分。

「俺の分はねえのか」
「お腹いっぱいなので半分あげましょうか」
「寄越しな」
面倒がって半ぺたをそのまま口に差し出すと育て方を間違ったか?と微笑まれるので黙って房を剥がす。育てられた覚えもないが、政宗さんがいう「俺が育てた」にはやらしい意味が存分に込められている。黙って従うが吉だ。

政宗さんは親戚周りの挨拶を元日にこの屋敷に人を集めて纏めて済まし、2日目はこれぞ正月と言わんばかりに炬燵から出たり入ったりを繰り返す寝正月を満喫している。いつもしているD&Gのロゴが派手な時計も昨日の威厳に溢れた紋付の着物姿も何処かへやってしまい、さすがの小十郎さんも炬燵で眠る政宗さんを咎めはしなかった。日頃働きまくってる人だから、私も眠りの淵に落ちては浮上する政宗さんを眺めて正月を過ごす。普段大人しくしてない人だから静かにしている顔の眺め甲斐もある。

「政宗様、」
「ああ」
「お休みでしたか」
「いい、起きてた」
「お家から電話が」
「……俺は今日は休む、ぜってえにだ」
「わかっております」
「今夜から本気出すって決めてんだ。小十郎、適当に断っとけ」
「承知いたしました」
「終わったらお前も炬燵入りにこいよ」
「……承知いたしました」
小十郎さんが一度も頭を上げないままやりとりが終わって、二度目の承知は全然承知してなかったなと私は他人事に考える。政宗さんはお母様方のご実家と折り合いが悪く、私の記憶が確かなら昨日の集まりにも呼んでいなかったと思う。
「新年早々めんどくせえな、名前……」
ごろんと転がったまま私を抱き枕にして政宗さんに腹を揉まれる。体重計にはしっかり乗っているし太った筈がないが、政宗さんと比べたら肉は多い。執拗に揉まれると己のだらしなさを咎められているようで非常に恥ずかしい。

「殿はよく励んでおられまする」
「よく言うぜ」
「ただ、堂々と小十郎さんに言うのやめてくれませんかね」
「何をだ、honey」
「こ、今夜から頑張るとか」
「事実だろうが」
「ぐっ……」
こういうお殿様気質は全くなんなのだろう。世が世なら一国の城主でもおかしくない人ではあるが一般人にはまったくついていけない。
「機嫌直せ。昼も夜も、なんだってくれてやるから」
政宗さんは私を抱き枕にしたまま首に顔を埋めて篭った声でそんなことを言う。
「何もいりません、貰いすぎなくらいです」
「……言ってくれる」
遠慮でもなんでもなく、本当にこの人に与えられて大事にされている。何もいりませんと繰り返せば、困ったなと本当に困った声音で政宗さんはため息をついた。

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