阿国ちゃんと国主
>>サ終にあたってポエムをよんでみた。楽しく遊ばせてもらったな……今は全集をゆっくり待ちます
この山城の居城は概ね片付いた。
輝く紅玉、蒼玉、米や食糧、開けずに残しておいた葛籠、玉鋼の他なにかに使えそうな資材、完成には全然足りない武器のかけら、お守り、結局一度も使わなかった薬……他色々残っているがこれでいい。使いきれなかった分は私が去ってもここに残る人たちが食い繋ぐのに役立つだろう。
「国主さま」
そして、私はこの子を置いていくのだった。ある日突然山城に居城を得て、乱世を駆け抜けることになったわたし。名将たちと肩を並べるどころか、彼らを率いることまで求められたわたし。そんなたいそうな任務を負うこととなった、わたしは一体何者なのか?彼女はわたしを「国主さま」と呼んだ。山城の、どことも知れないどこかの城にいるわたし。この子がわたしを国主と呼んだ日から、わたしは戦国武将を率いて戦う山城の国主となったのだ。山城を拠点とする同盟のひとつに与し、彼らと共に乱世を駆けたわたし。
「阿国ちゃん」
全然片付かない居城にも、阿国ちゃんは何も言わなかった。ただ一通手紙をよこして、私を国主さまと呼んだ。
「阿国ちゃん、お手紙ありがとう。これのおかげでわたし国主じゃなくなる。阿国ちゃんに、面倒見てもらう、乱世の救世主は今日でおしまい」
「国主さま……」
「でもね、あんまり納得してないよ」
手紙を読んだ時もだが、こんなに殊勝な阿国ちゃんを見るのは初めてだった。
いつもよそ様に余計なことを言って、人の弁当を勝手に食べて。私がトラブルに巻き込まれることも多かったけど、それと同じくらい阿国ちゃんがトラブルを持ってくることも多かった。いつも、嫌な予感がして立ち止まる私を「追いかけましょう!国主さま」なんて言って追いたてて。左近も清興も官兵衛さんも、「絶対やめた方がいいぜ」ってぼやいて、バトルにうきうきの竜王や怪王を引き連れて、次々沈む武将を見て悲鳴をあげるわたしに家康が「いざとなれば一度きりだが……やり直しはきくだろう」と微笑んだ。結局最後まで家康の「一度きり」には頼りっぱなしだった。そうやっていつも無計画に戦場に突っ込んでいった私たち。
「阿国ちゃん、明日からわたし、国主さまじゃないよ。だから、次に会う時は……違う名前で呼んでね。政宗さんや幸村さんって呼ぶみたいに、わたしの名前を呼んでね」
阿国ちゃんは黙ってお行儀よく正座して私を見ていた。阿国ちゃんが何者なのか、結局最後まで詳しくしらないままだった。
こうして引き上げの準備の整ったわたしのお城だが、撤退の理由と同じくらいかそれ以上に収穫を数え上げられる。毎月21日には手紙を送ってくるやつらがいたし、わたしを見て、わたしに話しかけた人たちがいた。
政宗さんは本当の本当に竜王になってしまったし、幸村さまはまたひとつ新たに自身の理想を体現する未来を得た。慶次はドのつく初心者国主が仲間集めに奔走するのをいちばん最初から助けてくれた大事な仲間だ。あの三成はわたしに共に戦う力になれと語り、家康はわたしに弱音を吐いた。かつて次元を越えてわたしを見た松永久秀は今度はわたしたちの世界を語ったし、織田信長は異界を見た。何もかもが初めての日々。
さて、ものは何も片付いていないが城を追い出される準備は整った。あとはこの無尽蔵の米を、食いつないでうまいことやってくれ。
阿国ちゃんは一度も呼ばなかったけど、わたしの名前を知っている。近畿を中心に散らばる他の国主とわたしを区別するために、わたしの名前の名前は必要だった。次に会う日を楽しみにしてるよ。あなたが私を何と呼ぶのか、どんな顔で笑うのか、泣くのか。ずっと、考えている。
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