煉瓦の路を辿って2

玄武くんがアメリカへ行って1年目の冬に、私はニューヨーク出張の機会を得た。しかもありがたいことに、賢ちゃんが取ってくれた航空券は3枚。ニューヨーク行き、ニューヨークから玄武くんの留学先へ、玄武くんの留学先から成田へ。賢ちゃんはにっこり笑って、「会いに行ったらいいんじゃないかなって思って」と言って社長も「遊んできたまえ!!!!」と頷いた。朱雀くんも私が一足先に会いに行くことについて報告すると、俺は夏に会いに行くから!と快く送り出してくれた。

こうして、充実かつ日程的に明らかに過密なニューヨークでの仕事を終えて、私は飛行機に飛び乗り爆睡すること2時間、玄武くんの留学先にたどり着いた。

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海につきだすようにして作られた空港から無事ロスト回避した荷物を拾って(ニューヨークについた時は涼のサイン入り写真集を入れたスーツケースのベルトが外れていて冷や汗をかいた)、電車に乗って街中に向かう。ごうごうと唸りながら走行する電車の中で玄武くんとやり取りをした。玄武くんとはいろんなツールで度々やり取りをしていたけど、決してその頻度は多くなく、連絡をくれるのもなんてことない日もあれば、向こうでちょっと行き詰った日のこともあった。日本にいる時と変わりない玄武くんが路線の案内と降りる駅、出口の番号まで教えてくれて私は無事に荒ぶる地下鉄から降りて地上に出た。探すまでもなく、市役所の一番目立つところに立っていた長身を見つけ、向こうも待ち構えていたのだろう、すぐに目が合った。


「番長さん!」
「久しぶり!やっぱり寒いねえ」
「ニューヨークも寒かっただろ」
「もー到着の翌日に大寒波襲来したの見たでしょう。ニューヨークまで来て遭難するかと思った」
「無事で何よりだ」
玄武くんは私の海外旅行サイズのスーツケースを奪い取って「せっかく街まで来てもらったんだから飯食って帰ろう」と白い石造りの建物に向かって歩き出した。
「待って荷物!お土産も入ってるから重いよ!」
「来るまでにさんざん埋まっただろ?任せな」
「……ごはんは奢ってあげるからね」
「ロブスターでも頼むかな」
「おいしい?」
「どうだろう……港に行った方がうまいんじゃないか」
来るまでにさんざん雪道に埋まった重いスーツケースを玄武くんは適度に持ち上げながら連れて行ってしまう。久しぶりに会ったのに、その日々を感じさせないくらい自然に会話がつながって、でもすごく大人っぽくなったなあと思う。男子三日会わざれば……という言葉が頭を過る。

「コート、新しいの買ったんだね」
「こっちの寒波は侮れねえってことを身をもって知ったよ」
「ねえ、寒波ひとつで車が埋もれるくらいになるなんてほんとに寒いとこなんだねえ」
「池も河も凍るからスケート場だけは困らねえ」
「だろうね……スケートした?」
「してない」
「忙しそうだもんね」
重たいドアを押し開けると外とは比べ物にならないくらい暖かく、活気に満ちていた。横浜の赤レンガみたい、と言って玄武くんに笑われる。彼も初めて来たときに同じことを考えたらしい。

たくさん並んだ店に目移りしていると玄武くんがあれはアメリカ系のピザ、イタリアっぽいピザならそっち、あそこは中華、リンゴ飴、アイスクリームパーラー、もう少し奥に行くとオイスターバーがあって、とおいしそうなものばかり勧めてくるので困ってしまう。カリフォルニアロール的な寿司屋さんを横目に通り過ぎ、あまりに決まらないので玄武くんを見上げた。
「…玄武くんは初めてここに来た時に何食べたの?」
「あそこの」
玄武君がさしたのは一際にぎわう……
「エビじゃん!!」
「ロブスターだ」
「ロブスター食べたんじゃん」
「いちばん有名だからとりあえず……うまかったよ」
「じゃあ同じの食べる」
「番長さんには無理だと思うけどな」
「なんで?」
「あれとロブスターサンドだぜ?」
……うわ無理!玄武くんがさしたのは、大きなパンをくりぬいた中にクラムチャウダーがなみなみと注がれているやつ。ニューヨークを訪れて以来何度も目の当たりにしたアメリカンサイズに思わず顔が引きつる。玄武くんは笑ってどうする?と私に尋ねた。私は例のクラムチャウダーをシェアすることを提案した。

ニューヨークで大変だった話や最近の事務所の話をしながら食べたクラムチャウダーはすごくおいしかった。ロブスターサンドも、どう見てもザリガニなのにおいしかった。デザートにはごてごてに飾り付けられた大きいリンゴ飴を買った。行きがかりに気になっていたのがちゃんとばれていて玄武くんが寄ってくれた。包丁で切って食べるのがいいかもしれない。朱雀くんがいたら隣のショーケースの派手なアイスクリームを食べただろうなと思った。

すでに閉まっているお土産屋さんをショーウィンドウ越しに2人で眺めた。年中クリスマスの店、あれは安く劇場のチケットが買えるところ……と玄武くんが教えてくれてひとりではきっと気がつかなかっただろう、知らないままだっただろうそれらを眺める。アイスホッケー観戦を終えた人たちが興奮した様子でマーケットの建物の中に吸い込まれていった。玄武くんも隣で静かにそれを見ていた。

「玄武くん」
「ホテル、反対側か」
「ああ……うん、たぶんそう」
「送る」
玄武くんがスマホに表示した地図を見て迷わずキャリーケースを引いた。言いたいことがあるのはわかってくれたはずなのに、遮られて何も言えなくなってしまう。

「寒いねえ」
「今日はまだマシな方だぜ」
「大雪の日とかほんと大変そう」
また意味のない会話でつないで、私はどうやって切り出すべきか考えている。

ホテルに荷物を置いたら24時間営業のドラッグストアに買い物に行こうと玄武くんが言って私はそれに頷いた。私たちは地方のロケでホテルに泊まるといつもホテルを抜け出して、コンビニやドラッグストアに行ってた。玄武くんが面白がって「悪い遊び」と茶化して朱雀くんは真冬でもアイス買ったりして、私たちの地方ロケでの楽しみのひとつだった。知らない土地での夜間外出が好きなのは、高校の時の修学旅行から変わらず、あの時先生たちにきつく叱られたから夜の8時くらいだったとはいえ「悪い遊び」には違いない。

玄武くんはまた黙ってごろごろとキャリーケースを引きずる。この気まずい距離感は、ドラッグストアに遊びに行ったら、私たち3人でホテルを抜け出したあの頃みたいになんにも気にせず笑いあえるようになるだろうか。




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