久方より


それが幻覚だと知っていた。
求めているから見えるのか、罪悪感から忘れられないのか、理由は分からない。どこへ向かえど、視界の端にその人は佇む。
それが一体どんな表情を浮かべているのか。
今日も見れなかった。


︎ ✧


上を見上げれば万事屋銀ちゃんと書かれた看板がかかっている。廃業にはなっていなさそうで良かったと安心する反面、もう一年もこの看板を見ていなかったのか、と考えて少ししんみりとした。

この国が侍の国、なんて呼ばれていたのは随分と昔の話。今では江戸の空には異郷の船が飛んでいたり、街にはふんぞり返った異人が溢れかえっている。
二十年前、突如として天人はこの星にやってきた。それにより幕府は鎖国をやめて、技術は発展したものの、この星に元々住んでいた人々の暮らしは肩身が狭くなるばかりだ。

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