旅は道連れ


物心がついた頃には既に暗殺部隊、天照院奈落に所属していた。
所属していた他の子供たちは何も疑問など持たずに、人を殺す術を学び、成長すれば奈落の暗殺者として生きることになる。

_______なんとなく、それは嫌だな。
そう感じていた。なぜかはわからないけど、育てて貰った恩こそあれど、恨みなんて無いはずなのに、組織に対しての嫌悪感は消え失せ無かった。
骸は それは正当な怨恨だと思う、と言っていたけれど、私自身に思い当たる節はなかった。

でも、逃げ出した。ずっとここに居たら生ゴミみたいに腐ってしまうと思ったから、行動を起こすことにした。
地球はダメだ。なら、どこに逃げるべきか。
ならそらはどうだろうか。
馬鹿らしい考えではあったと思う。

地球で逃げるのは至難の業だと理解していたからこそ、別の星での仕事が回ってきた時、天は私を見捨てなかったと思った。
この騒ぎに乗じて、見知らぬ宇宙船に乗り、他の星に高飛びして終わり、…のはずだったのに。

「……ここ絶対豪華客船でも貨物船でもないよ〜」

乗務員はほとんど屈強な天人。顔面だって心做しかみんな厳つい。
明らかに豪華客船や貨物船では無い。
豪華客船なら行先はリッチな人が利用する星だろうし、貨物船だとすればそういう商売に長けた星だと思ったので、そういう船を狙ったのに。
いやでも並んでる船の中で一番豪華な船に乗っただけなんだけど、無断で。
そういう船の方が良い感じの星にいくかな、とか思ったんだけど。
そんなことないかもしれない。向かうのは世紀末とか地獄の果てかもしれない。奈落よりマシだけど。
もう飛び立ってしまったから今更降りるなんて出来ない 。そして見つかって外に投げ出されるのもまずい。
そんなことされたら宇宙の藻屑になってしまう。


「…やばい。本当にどうしよう」

分かるのはこの船が多分某海賊が利用してる船ってことだ。もうちょっと下調べをして動くべきだったかもしれない。今更後悔した。
どうしようかと部屋の端に座り込んでいると、突然浮遊感に襲われる。

「うわ!」
「お〜い、小僧。こんな所で何してやがる。早速ホームシックかァ?」

男は片手で私を持ち上げると、ほれほれと指で顔を突っついてくる。

「小僧じゃないです。」
「って、アレェ!?もしかしてアイツの妹か?」

男は申し訳なさそうな表情を浮かべ、悪いな、と謝り、私を床に下ろした。
目の前の男は、いやそれにしては…でも似てるな…と自問自答を繰り返している。
しかし私には兄弟なんていないし、なんなら両親だって蒸発してしまっている。
家族、といえるような存在はいても、血の繋がっている家族はいないはずだ。

「え〜、私は一人っ子だよ」
「それにしてはあの餓鬼にそっくりだけどなァ。」
「そんなにそっくりなの?」
「兄妹っていっても違和感無いかもしれないなァ。」
「残念ながら地球産地球育ちの一人っ子だよ〜」
「あ〜、あの辺鄙にある青い星か。なんだってそんな所からこんな場所に来ちまったんたよ、お前さんは。」
「別の星に行きたかったんだけど、まさか海賊船だなんて思わなかった。」
「無断船乗だけじゃなく、不法入国ならぬ、不法入星を企もうとするなんて、無害そうな顔してとんだクソガキだ。」

えへ、と笑えば目の前の男は軽くデコピンをしてきた。

「痛い!」
「んで、まァ、海賊になる気がないなら、次の星で降りるこったな、お嬢ちゃん」

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