やたらと見覚えのある華奢な背中は誰かなんて聞くまでもない。ビアンキに跨り校門を出ようとした俺の姿を確認したそいつは何をする訳でもなく、俺に手を振りスマホを3回振って帰っていく。今の誰だよ靖友、知り合いか?と新開や東堂に尋ねられるが、全く答えることも出来ず、今日の部活も悔しいが身に入らなかった。

黒歴史として仕舞いたい過去が俺にはある。
その黒歴史の中で、唯一思い出にはしたくなかった出来事がある。それがそいつ、{emj_ip_0173}{emj_ip_0169}との出会いだった。



「あんた、このご時世にコッペパンはないわ、笑う」

第一声がそれだったような気もする。
やりたくないことから逃げていた俺は必死だった。夢や希望も全てを失った俺は学校もサボり部活もフケた。家族は勿論何にも言わなかったし、いわれたところで従う脳もなかった。
素行は悪かったものの、煙草や酒には手を出さない。染み付いた野球精神がそう言っていたのが、ほんの僅かでもそんなことを考えてしまった自分が恨めしい。
午前9時。学校に行くには遅すぎる時間に家を出たのはいつもの場所へ向かう為。
近所のゲーセンという名の暇つぶしだ。あてもなく歩いたところで疲れるだけだと学んだ俺は、どうにも解消しないむしゃくしゃをぶつけるためになんとなく格ゲーを始めた。それがまさかこんなに熱中するだなんて思いもせず。
連日通ったおかげか、ランキングにも名を連ねる自分の姿に嘲笑した。ったく何やってんだか。
初心者の頃から比べると、少し硬いレバーもボタンも手に馴染んできた。

YASU、と4文字のアルファベットをいつも通り打ち込みゲームオーバーになる簡易的な格ゲーはそろそろやめようか。覗いた財布の百円玉が底を尽きたところで俺の興味も失せる。わざわざ両替をしてまでプレイするものでもない。
携帯で時間を確認すると昼過ぎ。腹も減ったな、と重い腰を上げたところで正面から声がかかる。

「ねぇ、あんた。このご時世にコッペパンはないわ。笑う!!」
「ンだヨてめぇはよッ!!」

人のことを指差して笑うソイツは俺の座っていたゲーム機の正面に座っている。一気に顔を上げたことにより揺れた髪の毛に更に笑みを深めた。

「久しぶりに見た、そんな古風な髪の毛。ハーー、笑った。ま、何でもいいんだけどさ、私と対戦しない?」
「ケッ…誰がやるかヨ」
「いいの?ランキング1位のFTK、倒したくない?」

付き合ってられねぇ、とそのままその場を立ち去ろうとした時に制止の声をかけた女の声に立ち止まる。ーFTK。それは最近の俺にはよく馴染みのある3文字。どうあがいても越えられなかった1位の壁。

「攻略してみない?全国1位」

なんでそうなったかはわからない。負けず嫌いの性格が功を成したのか、一気に火のついた俺は重い腰をさらに硬い椅子に沈めた。
勝負はあっけなく終わった。言いたくないが勿論俺の負けだ。

「今だから言うけど、実はさ、そっちのレバー操作逆に動くんだ。業者の修理も当分目処が立ってないみたいだよ」
「じゃあテメェこれ八百長じゃねェかヨッ!!!」
「はは、気づかなかったあなたも悪いからね。ってことで同罪〜」

勝手に開き直ってんじゃねえぞ!?
アハハ、と棒付きの飴を加えながら笑うそいつに女ながら殺意さえも芽生える。

「じゃあ、勝者は私ってことで。なんでも一個言うこと聞いてもらうからヨロシク」
「聞いてねぇこと言ってんじゃねえヨッ!」
「心の中で言ったからこれって言ったようなもんじゃない?あ、そうだ、ねえあんたちょっとこれから一緒にこない?」

日本語喋れや。普通にそう思った。こいつは会話が通じないと自覚したのは絶対に二人乗りではないだろうバイクの後ろにまたがった後だった。


「ねえYASU!」
「…アァッ!?」
「海行こ!海!」

デカイ声でヤス、と呼ばれこいつに名乗ったか考えていりゃ、そういえばあのゲーセンのハンドルネームだったなんでことを思い出し、何で知ってンだヨ、という疑問は飲み込む。明らかにスピード違反であろう速度で走るそいつは愉快に笑うだけで、多分俺の忠告を聞く気はない。
平日の昼間から、原チャで制服を着たノーヘルの2ケツ。警察に目を付けられるのなんて目に見えてるってのに。

「やっば、きちゃった!YASU、捕まっててね!ーーーーっおりゃ!」

グン、とさらにスピードが上がる原チャ。
改造車舐めんなよ、とニヤリと笑ったそいつはさらにアクセルを踏み車が通れない路地裏を猛スピードで進んでいく。