恋人ごっこ

 ぱしゃ、と音を立てて水が跳ねた。ひんやりと冷たい海水が、彼のジーンズを濡らしてきらきらと輝いている。二十代の青年にしては華奢な輪郭を描く影が砂浜に伸び、少し高いアルトの声が私の耳に滑り込んでくる。
「お前もこっち来たら?冷たくて気持ちいいぜ」
 そう言って彼は私を手招きし、ぱしゃ、ぴちゃ、と足元に揺蕩う水を蹴っている。そんな光景に私はつい笑って「水遊びのお誘い?」と彼をからかってしまった。「ん、いいだろ、大人が水遊びしても」駄目なのか、と拗ねた声にまた笑う。そうして私は軽くかぶりを振って答えるのだ。「いいよ、大人が水遊びしても」




21.恋人ごっこ
水遊び/跳ねる/華奢

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