新しく知ったこと

ワシと彼女が初めて話して、1週間。特に何も変わる様子はない。彼女はいつも通り虐めにあっとるし、授業はサボっとる。ワシと目を合わせることもないし、話しかけてくることもない。なんやつまらんな、とは思うが何かしようとも思わへん。
授業終了と放課を告げるチャイムがなる。ワシは授業に出たが、彼女の席は空席。一日に一教科出とればええ方やししゃあないな。っちゅうか、彼女と話してから空席のあの席を見るのが癖になったような気がしてならん。嫌やわあ、虐めに巻き込まれたらどないしよか。つーて別に心配でもない心配をしながら、帰り支度をした。

「お、いいところに。今吉!」

たらたらと帰り支度をしていたせいやな、担任に名前を呼ばれてしもうた。面倒臭いのお。

「先生ーワシ今から帰るんですわ」
「そう言うなって、第二図書室に戻しておいてくれ」

そういって人の事情も知らず、ドサッと本を乗せてくる。次のテストも期待してるからな、と一言残しておらんくなる担任にはあ、とため息をつく。まあどうしようもないわ。しゃあないとワシは鞄と預けられた本を持ち、図書室へ足を運んだ。


 ∬


縁っちゅうのはあるんかないんかようわからんけど、今回ばかりは担任に感謝っちゅう感じやな。しかしまあ、暖房も効かん図書室に好き好んでおる人間には初めて会ったわ。
ワシの学校には図書館が二つある。暖房が効いて明るく、学習スペースに新書や有名著書、有名な参考書などが多数取り揃えられとる第一図書館。そして暖房が効かず薄暗く、学校資料や第一図書館に入らんくなった古書が集められる第二図書館。勿論生徒たちはめったな用がないと第二図書館になんか入らへんし、用事があっても入りとうない奴ばっかりやろうな。

「ようこんなとこに居れるな」

担任から預かった本を本棚に返しながら、堅そうな椅子に座っているクラスメイトに話しかける。驚いた様子もなしに彼女はワシを見た。

「また今吉くんか…暇なの?」
「阿呆、担任に頼まれたんや。誰が好き好んでここに来るかっちゅうねん」
「私」

真顔でそう言い切った彼女。やっぱ変な奴やんな。

「授業いつもここでサボっとるん?」
「あとは屋上とかね」
「サボって何してるん」
「んーここの古書ってね」

そう言って手に持った本をワシに見せる。表紙が薄くなっとる所為で本のタイトルが読めなくなっとるそれを彼女は大事そうに持っている。

「大分昔のがあるの。割と新設高校のはずなのにかなりレア。勝手に持ち出しても誰もいないからばれないしね」
「ほお…それは知らんかったわ」
「結構、絶版になったのもあるの。この学校に入ってよかったー」
「そない本好きなん?」
「うん。視力落ちたのも本の読み過ぎだからね」

そう言って笑う彼女はクラスにいる時とは雰囲気が違う。本当に本が好きなんやなと思うた。


新しく知ったこと
 (君の好きなモノ)
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