私の不安の全て
部活動を引退し、クラスの違う私たちは出会うことも少なくなった。私はよく小学生の頃入っていたクラブチームに顔を出すようになっていた。けれど影山がくることはなかったし、そこのコーチに影山のことを聞かれ、日が経つにつれ受験勉強が忙しくなり私も顔を出さなくなっていった。

「青葉城西から、推薦…ですか」

顧問に呼び出された私は担任の先生と顧問の前に座って話を聞いていた。及川さんの言っていたことは本当だったんだなとぼんやりと思う。

「女子ではお前だけだ」

男子は。影山は、と口に出そうになるのを飲み込む。きっと彼は白鳥沢だろう。

「どうする苗字」

私は及川さんの言葉を思い出す。彼は私を必要としてくれた。私は、彼に恩返しをしなくてはならない。答えは決まっていた。

 ∬

段々と受験が近づいていく中で、推薦で一足先に決まってしまった私は忙しそうにする皆を眺めていた。

(バレー、したいなあ)

またクラブに顔出そうかな、と思って入れば見覚えのあるらっきょうヘッドが見えた。男女という違いがあってそこまで関わることはなかったけれど、練習で出会えば手伝ってもらったりもした彼に声をかける。

「金田一」
「ん?苗字か」

こっちを振り向いて、ひさしぶりと笑う彼。

「進路、決まった?」
「うん。青葉城西」

その言葉に目が丸くなる。そっか、彼が男子の推薦枠か。

「そうなんだ」
「あと国見も」
「へえ。知らなかった」
「お前は?」
「一緒。青葉城西」

私の言葉に次は金田一が目を丸くする。

「女子の推薦、この学校きたの初めてじゃねーの」

よく知ってるな、と私は笑う。この学校の女子バレーはそこまで強くない。だからこの学校からバレーの強豪校に推薦がくることはなかった。私が初めてらしい。
でもこれは私だけの力ではない。及川さんの力。私は思いあがることはないし、そんなに馬鹿じゃない。

「及川さんがね、監督にいってくれたんだって」
「ふうん…お前仲いいよな及川さんと」
「そう、かな」
「うん」

一緒に練習してただろ?と続ける金田一にばれていたことを知る。

「みんな、知ってた?」
「まあ俺たちの学年の男子はな。前に体育館使えなかったときに見た」

私が及川さんに教えてもらっていたのは、近くの市民体育館で。そりゃあばれるか。と小さく息を吐いた。

「じゃ、高校行ってもよろしく」
「うん」

そういって前を私よりもはるかに長い脚で歩いていく金田一。ぼんやりと彼の後ろ姿を見る。後ろ姿が、影山に重なる。彼らはこれからも身長が伸びて、私よりもずっとずっと高いところへいってしまうのかもしれない。それがどうしようもなく、寂しかった。
姿が見えなくなって、ふと窓の外を見た。外は雪が降り出していた。


キミにはわからない
(私の不安のすべて)
katharsis