私達の未来の先
決勝戦。
トスミスでは決してなかった。

彼と彼らの僅かな違い。ほんの一つの小さな違い。ただ、彼の求める勝利を彼らが求めていないだけ。

けれどそれは。チームにとってとても大きな違いだった。

呆然と立ち尽くす彼を見て、私はなにを感じるべきだったのだろう。まだコートに立ちたかったと身体中で叫びながらベンチに戻る彼に、私はなんと声をかけるべきだったのだろう。
でもきっと、私には声をかける資格はない。

決勝戦で敗れた男子を見て、私は静かに唇を噛み締めた。

 ∬

携帯が震える。学校帰りにバイブにしてあった携帯を開けば、そこには"及川先輩"の文字。この三年間とてつもなくお世話になった先輩からの連絡に、なんの迷いもなく通話ボタンを押し込んだ。

『名前ちゃん、お疲れ様』
「及川さん。三年間ありがとうございました。それからすみません」

私の言葉に及川さんが『なんで謝るかなー』と困ったように声を上げたが、どうしても私には全国大会にいけなかったことが、悔やまれてならなかった。あと少し、あと少し自分が上手ければ、と意味のない仮定が部活を引退した後もずっと頭の中を占めていた。

『名前ちゃんさ、高校決めた?』
「…まだです」

及川さんの問いに正直に答える。高校のことなんて一つも考えていなかった。ずっと部活のことだったのだ、当たり前といえば当たり前だ。幸いなことに勉強自体は苦手ではないため、それほどまで入試では苦労しなくて済むだろうし、推薦もいくつかくるだろうとの話だ。影山とは違い、白鳥沢は難しいだろうけれど。

「いくつか推薦は、来そうなので」
『…あのさ』
「はい?」
『青葉城西にこない?』

突然の誘いに沈黙が走る。青葉城西といったら白鳥沢に続くバレー強豪で、推薦枠は北川第一にもあるがそれはもちろん少ない。

『俺、いま監督に名前ちゃんのこと推してるんだ。努力家で才能があって、でも自惚れない凄い子がいるって』

まるで私ではないかのように褒める及川さんに、眉間に皺がよる。

『名前ちゃんさえいいなら、監督も推薦出そうと思ってるって。俺は来て欲しい。名前ちゃんと一緒にまたバレーがしたい』

『だから、考えておいて』そう言って電話を切ってしまった及川さん。どうして、彼がそこまで私によくしてくれるのか、私にはわからないけれど。


眠気に誘われて、そっと瞼を閉じる。身体中が重くなってゆく中で瞼の裏に浮かぶ、青葉城西のユニフォームをきた私。
その私に向かい合うように、白鳥沢のユニフォームではない、真っ黒なユニフォームをきた影山がいたような気がした。


キミにはわからない
(私達の未来の先)
katharsis