君にはわかって欲しくない
「俺は、馬鹿だから、なんでお前が俺を嫌ってるのか。わからない」

私の目をじっとみて話し出す影山。私の汚い感情で彼を切り離した。だからどうしてそんなに泣きそうなの、なんて聞けないんだ。

「いつかはまたガキの頃見たく笑えるんじゃないか、とか思ってた。ずっと、そう思ってた。俺は、お前の努力してる姿が好きだったし、俺よりずっとすげえ奴って思ってた。」

紡ぐ言葉は段々聞こえなくなる。彼はどうしてそんなにもまっすぐなのだろう。どうして、私を責めないのだろう。
嫉妬して、ずっとずっと彼から逃げていた私には彼の思いがわからない。彼がどうしてやさしいのか、わからないの。

「どうして」

気付けば私は言葉を発していて。

「どうして、責めないの」
「苗字…?」
「私、ずっと嫉妬してたの!影山に」

涙が止まらなかった。汚い私を見せたくなんてなかったのに。どうして。どうして。言葉は止まらない。

「天才だって…凡人の私には、どうしても、追いつけないって、認めたくなくて、嫉妬して」

ずっと一緒にいると思っていたあの頃を、思い出せば涙はひどくなる一方だった。止まらない涙に視界の歪みがひどくなって、何も見えない。
そうすれば視界が暗くなった。暖かい体温はきっと彼のもの。

「…俺は、お前と笑ってバレーがしたかった」

一緒だった。ただ、私が、弱かっただけ。彼はずっと、強かった。心も、全部。
ずっと、一緒にいたいと、隣に並びたいと、心の奥底で願っていた。でも、弱い自分の心は不安を嫉妬に変えることしかできなかった。私は、弱かった。

彼の胸を押す。ゆっくりと離れていく彼に、私は涙でぬれる顔に笑顔を貼り付ける。

「ばいばい、影山」

走り出す私を彼は引き止めなかった。

ばいばい、影山。
ばいばい、大切な幼馴染。
ばいばい、私の大好きな人。

泣きながらやってきた私を、及川さんは困ったように抱きしめた。


キミにはわからない
(君にはわかってほしくない)
katharsis