解らない答え
クラスに眼鏡を外した顔を見せた苗字。それからあの虐めは嘘だったかのように勢いを消した。彼女はクラスによく顔を出すようになった。斜め三つ前の席が空席になることはのうなった。
苗字が教室にはいってこれば教室内の声は一瞬シン、となる。それはどう接していいかわからんクラスメイト達のしゃあない反応で。もちろん彼女はそんなもん気にした様子もなく、ただ淡々と本を読むだけやった。
「なあ、今吉」
「なんや?」
「お前、苗字と話せるんだよな」
こそこそとワシに話しかけてくるクラスメイト。サッカー部の主将だったそいつは虐めにも積極的に加わっとった奴。そんな奴が苗字の名を呼んだことに、何故かいらっとした。
「よかったらさ、紹介してくんね?
虐めてたの謝りたいし。顔、好みなんだよね。」
何を言うとるんや、そう思った。頭おかしすぎるやろ。こないな奴とワシは同い年なんか思うと頭を抱えたくなった。
こないやったらあのハチャメチャなキセキの世代の方がまともやで。
「なあ聞いてる今吉?頼むって!」
「わるいけど、ワシそない仲ようないから」
何より、アイツとは話しとうない。そう言って断ろうと思うたワシの耳に。
「今吉、くん」
今、最も話しかけて欲しゅうない声がした。
∬
「今吉、くん」
話しかけた。自宅でしか使っていなかったコンタクトを学校で使い始めて、初めて。彼に話しかけた。私がわざわざ教室にくる気になったのも、その為だし。
謝りたかった。そして彼が私といることを面白いと思っていたことを嬉しかったと、柄にもなく思ってしまったと伝えたかった。
それなのに。
「…藤田、しゃべっとりい。ワシちょっと用事あるんやわ」
彼は私を避けるように、教室から出て行ってしまった。私の方を一度も見ずに。
頭の中を渦巻くへんな気持ち。
笑って、なんやって、そう聞いてくれるかと思っていた。何故だろう。嫌われてしまったのだろうか?もう、話したくもないのだろうか?
名前も知らないクラスメイトが私に対して話しかける内容は頭に入ってこず、何故か答えのわからないたった一つの問いが私の頭の中を渦巻いていた。
分からない答え
(どうして胸が痛むのでしょう)