A級1位 太刀川隊


 A級ランク戦、本日の対戦カードは太刀川隊 対 冬島隊 対 風間隊であり、暫定トップスリーの対戦にボーダー本部中が沸き立っている。そんな中でその渦中にある太刀川隊はいつもの様子でのんびりと作戦室で各々が思うがままに過ごしていた。ふんふんと鼻歌を歌い上機嫌な太刀川、ソファに腰掛けながらお菓子を摘む出水、一人そわそわと周りを見渡す唯我、国近と名前は近日発売されるゲームの話で盛り上がっている。
 戦闘会場への転送までの時間が迫り、唯我が手を挙げる。まともに作戦も練らない彼らに作戦を与えてやろうと、そんな気持ちで声を張る。
「それでは本日の作戦は!今日こそボクが!」
「んじゃまあ、いつも通り取ったもの勝ちな」
「了解っす」
「あ〜い」
「んじゃがんばってら〜!」
 唯我の言葉をさらっとシカトした緩い会話と共に、オペレーターである国近以外の太刀川隊は仮想ステージへと転送された。

 冬島隊が当真の機動を上げた究極のエース強化型、風間隊がカメレオンによる連携を磨いたチーム戦型であるとすれば、太刀川隊は究極の個人主義者の集まりである。
 唯我という足手まといを太刀川隊に入れたのは彼らの隊が最も影響が少ないという理由の他に、上層部がそういった点を更生させたいという一面もあったのかもしれないが結果的にそれは個人主義を助長することとなった。
 防衛任務として必要があれば他者との連携を行うため出来ないわけでは無いが、少なくともランク戦において彼らはそれを必要としない。それぞれが圧倒的な戦闘力をもって他の部隊をねじ伏せるのが太刀川隊であった。
「さあて、どうすっかな」
 建物の屋上に転送された太刀川は眼下に広がる街並みを眺めながら今日の対戦相手を思い出す。基本的にA級ランク戦において真っ先に狙われるのは冬島隊の冬島である。玉狛第2の三雲と同系統――トラップのエグさは圧倒的に冬島に軍配があがるが――、放置しておけばそれだけトラップが増えるのだから当たり前だが本人もそれを把握している為に、雲隠れしている彼の根城はトラップの宝庫と化す。
『マーカー見えない二人はいつも通り当真くんと冬島さんだろうね〜。等間隔でおおよその検討はつくからトラップ跡見つけたら面倒臭がらず報告してね』
 国近の言葉にそれぞれがいつものように緩く、了解と返事をした。言うまでもなく、今回の戦闘において太刀川が最も戦いたいのは風間である。風間隊ならばいつも通り、適宜奇襲を仕掛けつつ部隊の合流を目指すのだろう。冬島隊は冬島の準備が終わるまでは当真の単独行動。
『国近、風間さんの情報は俺にくれよ』
『皆に送りまーす。抜け駆けは無しでーす』
「ちぇ、んじゃさっさと行くかあ」
 そう呟いて、視界に表示されている情報を確認。マーカーを片っ端から潰せばその内風間に当たるだろう。太刀川は空へ足を踏み出し、ビルから飛び降りた。

 転送された瞬間、名前は周りからの射線を確認した。等間隔に転送される前提から仮に当真が付近に転送されていても問題のないよう、射線の通らない物影に寄る。生憎、転送位置は低位置であり、すぐに駆け上がれそうな近くのビルも高さが足りない。狙撃手としてダメダメな位置であることにため息が溢れる。
 序盤であるため冬島のトラップは気にしないでいい。まだ当真の機動は訓練時と変わらない。太刀川の要求に国近から送信されてきた情報を確認しつつ、射線の通らない道を走る。近くにはマーカーが一つ。一応味方に属するそれに名前は口には出さず、言葉を投げつける。
『唯我ベイルアウトしない?』
『なんてことを!しません!ボクは一人倒してエンブレムを変えさせるんです!』
 太刀川隊の隊章。三日月をバックに三振の刃が並ぶそれは太刀川隊結成時、当然唯我が入る前に作られたものである。以前、玉狛の三雲が出水に師事しに来た時、隊長である太刀川直々に「この剣は俺と出水と名前で、三日月は国近。お前は半人前だから偉そうな顔をするな」と言われた唯我は、隙あらば隊章を変えさせようと必死である。
 唯我のしつこさに面倒臭くなった太刀川が、ランク戦で1ポイントでもとれたら変えてやるというような趣旨のことを気怠げに言ったせいで今回のランク戦で唯我はやけに張り切り前に出ようとしている。名前はため息をつくとその場から遠ざかり、目をつけた建物へ駆け上がる。さあお仕事だ。

 当真からの狙撃に気を付けつつ、転送位置にほど近いマーカーを追いかける出水はレーダー上の二つのマーカーが踵を返し、こちらに向かってきていることを認識した。
『距離近かったから合流早かったね。風間さんいたら暫く頑張って耐えてれば太刀川さんが来るよ〜』
『風間さんだったら俺が来るまで待って死ねよ出水』
「おれが風間さん殺んでゆっくり来ていいっすよ」
 ニヤリと笑った出水の周囲に人っ子一人見当たらないが、マーカーもうすぐ射程範囲に突入する。レーダー頼りの力業も出水の大得意だ。
「アステロイド」
 メイントリガーから展開したキューブを分割し、全方向に向かってフルアタック。当たればラッキー程度のそれに、手ごたえはないが舞い上がる砂ぼこりの微かな揺れを視界にとらえた。
 続けてアステロイドを揺れを追いかけ放てば、姿を見せたのは風間だった。そしてそれは囮、シールドを展開すれば同時に衝撃。歌川の弾丸は予想通りである。
『風間さんと歌川、発見っす』
 出水は好戦的に笑った。

 戦況が動くのはいつも一瞬である。
 太刀川と遭遇した菊地原のフォローとしてやってきた歌川を当真が狙撃。狙撃に一瞬気を取られた菊地原を仕留めた太刀川は、冬島のトラップによって既に姿を消した当真は無視し、出水の元へ向かう。
 一足先に来ていた当真の狙撃を腕一本犠牲にして避けた出水を風間が仕留めた。太刀川が辿り着く前にカメレオンにて姿を隠した風間にあーあと太刀川はため息をつきつつ、出水を笑う。
『出水ゼロじゃん、だっせえ』
 太刀川が来るまでにいくつか風間と歌川に傷は与えていたものの、いずれも致命傷には至っていない。作戦室では出水が国近の後ろで「太刀川さんうるせえ」と久々のゼロポイントに微かに落ち込んでいる様子だ。当真によっていつの間にかベイルアウトとなっていた唯我は「ボクと同じじゃないですか!先輩もそれほどじゃありませんね」の言葉にどつかれている。
「つーかうちの狙撃手何してんだ?死んだか」
 太刀川の言葉の直後、離れた位置から緊急脱出の衝撃音。
『当真仕留めましたけど何か文句でも』
 風間隊の動き、太刀川の動きから予想して隠れていた一つのビル。開始早々に位置を取った名前は決して狙撃しやすい位置ではないそこでじっと息を潜めていた。人知れず虎視眈々と狙っていた名前は達成した結果にふんと鼻を鳴らした。



執筆/公開 2018.10.27
中途半端なので後日追記予定です。


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