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「……で忍宗が広まりました。さらに……」
 教壇上で白髪を横に流した教授が声を張り上げ講義を進めていく。天気は快晴、時は昼過ぎ。教授の話を子守歌に幾人かの学生が睡魔に魅せられ海へと沈んでいく。柱間も昼に食べたキノコ雑炊を思い出しながら、程よい倦怠感を覚えていた。その中で、忍宗、六道仙人、大筒木、忍宗、とかつて聞いたような言葉を拾った瞬間、泡が弾けるように意識が覚醒する。
 思いを馳せるのは先の大戦。大戦の最中、敵として相まみえながらも再会の喜びを覚えていた。敵前でありながらも忍五大国が手を取り合いながら戦う光景に胸が高鳴った。ふと彼は、今忍世界はどうなっているのかという疑問を覚える。
「……これで今日の講義は終わりです。レポートは週末までに出してください」
 講義が終わっても尚思考の海から帰還出来ていない柱間は、目線を黒板に向けたまま、ノートに黒い蛇行した線を量産していた。講義の内容は一応ノートに取っていたのか、薄い乱雑な線の最中に文字が書かれている。
 周りが講義教室の扉に向かう中、魂の抜けている柱間のもとに彼方此方に跳ねる髪を無造作に束ねた青年が歩み寄ってきた。
「おい、……柱間、おい、柱間ァ!」
「なんぞ!?」
 親友の鋭い声に柱間は思考の海から帰還を果たす。肩をびくりとさせ、勢いよく上半身を後ろに倒せば、マダラから呆れたような眼差しを注がれる。
「お前、魂抜けてたぞ」
「マジぞ?」
「マジだ」
 柱間はそう言えばと一言前置きをしつつ、人が去った後の一つ後ろの机に肘を乗せ身体を右に向けると側にいる人物へと問いかける。
「期末は何時ぞ」
「おまえは……一週間後からだろう。大丈夫なのか」
「大丈夫ぞ」
 しばし二人の間に静けさが宿る。
 開け放たれていた窓から涼しい風が入り、暑さに耐えきれずに身体がかいた汗を撫でる。瞬間的に心地よい涼しさを感じ、直後に襲う肌を舐めるじっとりとした熱気を浴びた柱間は、急いでクーラーのある図書室に向かうべく、いそいそとリュックに教科書を初めとした授業で使ったものを入れていく。こぎみよい音を立てながら一番上に筆箱を置けば、整然と並んだ教科書がすまし顔で蓋が閉まるのを待っていた。甲高い悲鳴と共にチャックを閉めると席を立つ。
「空調が壊れてると暑くてかなわんぞ」
「夏だからな」
「川に行くか?」
「いいなそれ」
 雑談をしながら二人は暑さから逃れるように教室後方の扉へと急ぐ。廊下を通れば冷涼な空気が暑さに刺された肌を癒やした。更なる涼を求め、図書館に続く階段を急ぎ足で上る。