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 暫く経ち、さて出発するかと片付け始めた頃。柱間が立ち上がった拍子に裏返った包みには、術式が刻み込まれていた。
「なんだそれ」
「さっきお前の巻物に刻まれてたのと同じ種類のやつぞ」
「へぇ」
 時間が経ってもおいしいまま。食料の保存に特化した術式を見て便利になったものだな、とマダラは胸中で独りごちる。
 彼はふと、講義の中で教授がぽつりと零した話を思い出す。それは何という名前だったか。しばし考えるように手元に広げた巻物に描かれた術式を見つめた。
「そういえば科学忍具なる物があったと聞いたことがあるな」
 柱間は思い当たることがあるのか、弁当箱を包んだ柔らかな布の端を結びながら小首を傾げる。
「チャクラ無しでも忍術を扱えるっていうアレぞ?」
「多分それだ」
 彼らは情報が少なすぎて形すらも想像が出来ない科学忍具に対して、悪寒を覚えていた。その感覚は鷹に狙われる鳩、蛇に狙われるカエルのそれと同じだった。得体の知れないものに対して柱間は無意識に悪い方へと想像を膨らませていく。少しでも荷物をコンパクトにしようと巻物を開きながら柱間はぽつりと言う。
「……もしかしてお前の豪火滅失なんかも出来たりするのか」
 マダラは柱間の言葉に弁当を仕舞おうとして印を組んだ姿勢のまま壊れた機械人形のように柱間の方へと目を向ける。口には引きつった笑みが浮かんでいた。
「は? チャクラ無しでアレをか?……ひょっとし無くてもお前の木遁が出来たりしてな……」
  彼の脳裏にはかつての柱間が大量に量産された地獄絵図が広がっていた。チャクラ制限無し、連発し放題。そんなのがそこらにうじゃうじゃといる。いくら何でも生身でそんなのとは戦いたくねぇと彼ですら冷や汗をかいた。
 柱間も同じことを思ったのか、彼はこの世の終わりを見たような表情をしていた。まだ十尾と戦った方がましだと思うほどだった。
「……ある意味恐怖ぞ」
「……そうだな」 
 二人は冷や汗をかいたまま顔を見合わせる。たっぷり数十秒経った頃、我に返った柱間がほっと止めていた息を吐き出す。
「昔にそんなのが無くて良かったぞ。……あったらどうなっていたことか」
 マダラはため息交じりに話し出す。
「更に死者が増えて測量技師が泣いただろうな。加えて俺達が戦う度に地形が変わる訳だから……」
 二人はいくらいくら描き直してもあんた達のおかげでキリが無ぇ、と充血した目で泣きついてきた測量技師を思い出した。いつか見た仕事をしすぎた彼らの吐血する様を思い出して自然と遠い目になる。
「もう暴動が起きるぞ、それ」
「違いねぇな」 
 雑談をしている内に発つ準備が出来たのか二人が腰掛けていた岩から立ち上がった。そして、柱間はもう少しで到着する故郷に思いを馳せて軽やかに跳躍しマダラもそれに続く。森の中には二人が木を蹴る音と生き物の声が響いていた。