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「お、久しぶりぞ」
 柱間はたん、と力強く足下の枝を蹴ると、一等幹の太い木の枝に着地する。木がしなり、青葉がはらりと舞った。マダラも柱間の横に着地する。幹は成人男性二人の体重にも全く動じる様子は無い。
 眼下に見えるのは石垣と古い木造家屋たちが織りなす風情ある町並み。柱間はかつてと殆ど変わらない景観と活気溢れる様子に胸にこみ上げてくる物を感じていた。彼が太陽を見るときのように目を細めていると、隣に立っていたマダラが感慨深げに呟く。
「ここが……千手の」
 かつて熾烈な命のやりとりをした一族の本拠地。旧時とはいえうちは一族の長だった己がここに来る時が来ようとは。マダラは風景を焼き付けるように目を凝らした。柱間は懐かしさに誘われるままに大木から飛び降りる。マダラもそれに倣った。二人分の黒髪が下からの風に煽られて踊り狂う。
「ほんに変わってないの」
「往時のままなのか」
「うーむ……そのままではないな!」
「どんな感じだったんだ?」
「こう……もっともやっとしていたな」
「もやっと!」
「もやっとぞ!!」
 二人は空気を裂きながら地面へと落下していく。二人の側を通り抜けた空気が風となって言葉を上へと連れ去っていく。すると必然的に二人の声は大きくなっていった。
二人が裏道に軽やかに着地すると、疎らな通行人が驚いた表情を貼り付けながら視線を投げかけてくる。マダラはそれに釈然としない気持ちを覚え、気を紛らわせるように近くの石垣を見つめる。柱間はあちこちに視線を彷徨わせた。視界に広がるのはかつてより大分古びた町並み、肺一杯に広がる空気は懐かしい香りに満ちていた。
「確か……あっちぞ?」
 柱間は軌跡をなぞるように歩き出す。向かうは生家、思い出の詰まった場所。マダラもうちはとはまた違う町並みを興味深そうに眺めながら歩いて行く。程なくして人通りの多い道に出た。
「随分と入り組んでいるな」
「防衛も兼ねているからの」
 二人はのんびりと歩みを進める。街ゆく人は様々な服装で年齢も様々。数少ない額をしている者もそのマークは多種多様で、彼らもまたガイドブック片手に異なる額宛同士で和気藹々と話している。
「暖色系の屋根が多いな……あ、石垣に紋があるぞ」
 マダラの視線の先を見れば、仏具を模した千手一族の紋が刻まれていた。柱間はその馴染み深すぎる光景を見て声を上げる。
「おお! ……今住んでいる場所では見ないからの、懐かしいぞ」
「コンクリートしかねぇからな」