お返しは押し付けさせていただきます。
3月14日。いつも通りジュネスへ息抜きをしに行けば、洒落たフォントでWhiteDayと書かれている。
ホワイトデー、つまりバレンタインから1ヶ月経ったということだ。そういえば僕、名前から貰ったんだっけ。
あの子のことだし返さなくても問題はないだろうけど、一応買っておいたほうがいいのだろうか。
バレンタインはいいよね。適当にチョコレートを渡せばバレンタインというイベントが成立するんだから。
ホワイトデーは男目線でプレゼントを考えて、渡してみた結果センスがないだとかホワイトデーに渡すお菓子にも意味があるだとか始まるんだろう。
まぁ、それは世の一般的な女子高生の場合と考えておく、あの子は世の一般的な女子高生とは違って貰えるなら何でもいいタイプのはずだ。
あの子はきっと渡すお菓子に意味があるとか知らないだろう。差し出されたらありがたく受け取るタイプでしょ絶対。
そんなことを脳内でぐるぐると考えながらホワイトデーのコーナーへと歩いてみれば、案の定クッキーだとかハンカチが綺麗に包まれたプレゼントたちが綺麗に陳列されている。
ハンカチなら使い方次第で長持ちするだろうけど、「足立さんから貰ったハンカチで拭くなんてできません!」とか始まったら面倒だ。
適当にあの子が好きそうなチョコレートを買いジュネスを出て思い出す。
そう言えば僕、仕事中だったんだっけ。
綺麗に包装されたチョコレートを持ったまま、刑事が仕事をしていたらそれはそれで怪しまれる。堂島さんにバレたらアウトでしかない。
適当なビニール袋に入れて持ち歩けば軽いカモフラージュにはなるだろう...。
時計を見れば16時。さすがにそろそろ署に戻らなければ怒られる時間帯になってきた。
運よくこの袋の中身を喜んで受け取る彼女に会えればいいのだけれど。
時間的に下校中だろうか、彼女は今頃両耳をイヤホンで塞ぎ、目線は携帯電話のままこの狭い八十稲羽のどこかをフラフラと歩いているはずだ。
「...名前?」
こんな幸運な出来事があるなんて、この袋を受け取ってくれる彼女こと苗字名前がこっちに向かって歩いてくるではないか。
予想通り耳はイヤホンで塞がれ、目線は携帯電話。しかし、どうやら僕に気がついたようで、大急ぎで携帯を閉じイヤホンをカバンにしまっている。
すると、両手を広げ狙いを定めたかのように僕に向かって走ってくるじゃないか。その姿はまさに犬。尻尾を振って飼い主に飛びつく犬。
「なんで避けるんですか?」
「外だから。」
「誰もいないじゃないですか。」
「そういうときに限って見られてるの。」
「足立さんの家でならいいんですか?」
「うん。」
違う、そうじゃない。僕はこんな話をしたくて彼女に会いたかったわけではない。確かに僕の家でなら何回だって飛びついてもらって構わないけど...。
「せっかく名前に会えて嬉しいんだけど署に戻らないといけないから、ごめんね。」
「ちゃんとお仕事してくださいね?」
「わかってるって。」
彼女に袋を押し付けると、こんなビニール袋いらない。とでも言いたげな顔をしている。
それもそうだ、いきなり真っ白なごく普通のビニール袋を押し付けられてありがとう!と受け取る人間なんてそういない。
「それじゃ、」
間違っても捨てないでよ。それ、
ハートの絵文字が何個も入った「足立さんありがとう!」というメールが届いたのは僕が署に戻ってからのことだった。