1
「ごめんなさい...。」
これは現実だ。受け止めるしかない現実なんだ。
「本当にごめんなさい。何も覚えていないんです。」
僕に謝罪の言葉を向けているのは彼女の桐谷スバル。
彼女は事故に巻き込まれた。軽傷だったものの頭を打ち部分的に記憶喪失になっている。
話によれば、仕事に関する記憶はあるらしい。簡単に言えば、仕事以外は全部忘れてるってこと。
よりによって僕を忘れるなんて...。本当に困った子だよ、君は。
「ゆっくり思い出せばいいよ。僕はいつまでも待ってるから。」
「ありがとう...ございます...。」
ベッドに座る彼女から、いつもの明るいオーラを感じない。
怪我をした痛みのせいなのか、僕を忘れてしまったことに対する申し訳なさからなのかは知らないけど。
またスバルと1から関係を作り直さなければいけない。
ジグソーパズルのようにスバルの記憶をゆっくり組み合わせていけばいいだけ。それくらい簡単だって。
「僕は足立透。これでも警察やってるよ。」
「警察の方だったんですか...。」
そうは見えない。とでも言いだしそうな表情で彼女は僕を見ている。
そんなに警察っぽくないかな、僕。
「その...足立さんと私はどんな関係だったんですか?」
「恋人。」
「こ、恋人!?」
あー、やっぱり言わなければよかった?すごい驚いちゃってるねぇ。
そうなってしまうのも無理はない。仕事の関係者でもない見知らぬ僕と君が恋人なんです。なんて驚くに決まってるよ。
スバルみたいな存在と、僕みたいな存在が付き合うことなんて普通は難しいんだから。
「...絶対に嘘。」
不機嫌そうにそう呟いた彼女でさえ愛おしいと思ってしまう。
早く思い出してくれたらいいのに。
でも、ゆっくりでいいよ。
君が僕を思い出すまで何年でも待っててあげるから。