「御幸くん、いますか?」

そう言えば今日水曜日じゃん、ジャンプ発売日だわ。
倉持あたり持ってないかな。なんて、最寄りのコンビニを過ぎた頃に思い出し、期待して学校に来たけれど、倉持も私が買ってくるんじゃないかって期待して買ってないらしい。

ホントマジふざけんな。

「なぜに買ってない。」
「お前が言うな。」
「つかさー、御幸呼ばれてるよ」
「あ?」
「ヒャハハ、シカトかよ。
ひでーなー御幸くんは。」

相変わらずスコアブックを見つめていた御幸は、初めて顔を上げたが、不思議そうな顔をしているあたり、話は全く聞いていなかったのだろう。


「呼ばれてるよ」
ニヤニヤする倉持に乗るようにニヤニヤし、教室の入り口に立つ女子生徒をちらっと盗み見た。

胸ポケットにシャーペンだかボールペンだかが入っている女の子。マネージャーさんだろうか。ショートボブの可愛らしい女の子だ。
部活の打ち合わせかなんかかなぁ。なんて思いながら、カバンから財布を取り出し席を立つ。


「私購買行ってくるから、御幸も行ってきな。倉持、なんかいる?」
「あー、俺クリームパン」
「おけ」

いまいち現状が把握できていない御幸を置いて、教室を出る。相変わらずヒャハハと騒がしい倉持の声を聞きながら、入り口ですれ違った女の子の頬がやけに赤くて、印象的だった。


「緋色さーん」
「ん?」
「こんちは」
「遙、こんにちは」
「1人ですか?」
「うん、…遙は購買?」
「はい、あ、緋色さんもですか?」
「そ。」
「じゃ、一緒に行きましょ」
「うん」

やった。と笑った遙と共に渡り廊下を歩き出す。


「緋色さんは、御幸先輩と仲いいんですか?」
「御幸?うーん、それなりにじゃない、席近いし普通に話すけど」
「ふーん。」
「何」
「いーえ、なんでもないでーす」
「なんだそれ、キモ」
「相変わらず辛辣すぎる!」

泣き真似をする遙に、笑いながら頭を撫でる。

「ちょ!やめて下さいよ!緋色さん」

髪に命をかけている遙は、すぐさま窓で髪を直し、ジロリと私を睨んでくるが、それが逆に可愛くて逆効果にしかならないということを、こいつはいつわかるのだろうか。

そんな可愛い後輩をからかいつつ購買で、買い物を済ませ、踊り場で遙と別れ、クリームパンとサンドイッチ、飲み物を抱えて戻ると、意外に早かった御幸が、さっきとなんら変わらない姿で倉持と話していた。
つか、スコアブック見てないな珍しく。


「あれ、早かったね。倉持、ほれ」
「おっ、サンキュー」

さすが野球部、私の悪送球を軽々キャッチし、早速ビニールを剥がし出す音を聞きながら、席に着く。

あー、お腹減ったわ。


「…何」
「あ?」
「その顔」
「顔?」
「その何か言いたそうな顔だよ」
「んな顔してねーよ」
「あ、そー。」


サンドイッチを開けながら、

なんか言いたそうな顔してたけどさ、そこは隣人のよしみで、何も聞かないことにしよう。本人気づいてないみたいだし。

「」

それから他愛もない話をして、昼食を済ませれば、御幸は再びスコアブックを開き、倉持がなにやら野球部の人に呼ばれて出て行った。

特に何もすることがない私は、次の授業の準備をして、読みかけの本を開いた。


「‥実はさ、さっきの子告白だった。」
「へー。
あれ、マネージャーさんじゃなかったんだねぇ。」

まっ、御幸を待っている彼女を見れば、なんとなく予想はついたが。活字を目で追いながら、耳は御幸の声に傾ける。

ちらっと見た彼は、相変わらずスコアブックを熟読していて、その横は真剣そのものなのに、口から出てくる言葉は女の子のことで、それがなんとなくチグハグに思えた。


「あぁ。…普通に可愛かったし、返事どうすっかな、みたいな」
「ちっちゃくて可愛かったしねぇ。守ってあげたくなるタイプが好きなわけ?」
「いや…そういうわけじゃねぇけど。」
「ふーん。」、さっきの子ともっかい話してくるわ」
「え?あ、いってらっしゃい?」

御幸はおもむろに立ち上がって、そのままいそいそと教室を出て行ってしまった。なんだなんだ。慌ただしいやつだな。

「‥‥‥」

静かに一人で食べるレアパンはやけに味がしなくて、友達がいない昼休みってこんな感じなのかなと想像したら、なんだかんだ御幸を友達と認めてるみたいで無性に腹が立った。
そういえば今朝の星座占いで言ってたラッキーアイテム、ボールペンだったな。しょうがないから憂さ晴らしに、ボールペンで御幸の机にラクガキしておこう。これも行動だよ、うん。


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