「苓、今日これから暇?」
「あー、ごめん、後輩の練習見る約束しちゃった」
「あー、そうかぁ…んじゃ、また今度誘うわ」
「ごめん!」

リュックにスクラップブックと、スコアを入れているとなんと無く視線を感じてそれを辿れば、お隣さんが珍しそうに頬杖をついてこちらを見ていた。

彼は、いつもSHRが終わると同時に、倉持たちと教室を飛び出していくというのに、今日はまだ何故かここにいる。
珍しいこともあるものだ。
なんて、せっせと作業を再開した私に、なぁ。と声をかけたのは言わずもがなお隣さんで。


「…水瀬って部活やってたっけ?」
「え、うん」

あまり話すことのないお隣さんだったから、驚いて手を止めた。


「何部?」
「吹奏楽部だけど…」
「は?マジ?」
「マジ」
「もしかして応援、来てた?」
「いや、私いってないけど」
「は?」
「え?」
「この間の大会で、吹奏楽部にヒッティングマーチ演奏してもらったけど」
「あー、みたいだね。
うちの部にもさ、大会があってね時期が野球と被るんだよね。だから、私は行ってない」
「…自由参加とか?」
「んー…大会メンバー以外が行くからさ。」
「ん?てことは二軍?」
「あー、まぁ…。
いや、でも大会メンバーも行きたい人は行くよ。私はいかなかったけど」
「なんで」
「だって暑いじゃん、外」


ジリジリするし、楽器に直射日光当てたくないし。
それに、トランペットとか、トロンボーンとか太陽の光で輝く楽器は、外も青い空も野球場という空間にぴったりだ。けど、黒くて小さい私の楽器は、どちらかといえばインドア系のように思えてしまうのだ。

だから、とは言わないけど太陽に生える金管楽器が、行くべきだと勝手に思った。

「応援来いよ…今週末」
「え?」
「土曜9時。ここのグラウンドで練習試合あるから、見に来いよ」
「えー…」
「えー、じゃない」
「えー…」
「えー、じゃない」
「…御幸でるの?」
「おう、当たり前だろ。」
「うーむ、気が向いたら行くよ」

はぐらかすようにリュックを背負い、楽器と楽譜を抱えて、椅子に座ったままこちらをみている御幸に視線を合わせる。


「気が向からなくても来いよ。演奏とかなしで、応援来て」

そう言って微笑んだ御幸は、スクっと立ち上がり、エナメルのバッグを肩にかけた。

「んじゃまた明日な。」
それだけ言うと、御幸はヒラヒラと手を振って去って行った。
その背中を見送るとその背中を追いかけるように教室を後にした

さーて、練習、練習。



今週末か、…残念ながら予定は何もなかったな。
天気、曇りだったら行こう。