《あ、もしもし苓》
「うん、唯どうしたの?」
《あんた今どこ?》
「は?《ちょ、夏川貸せ。あ、もしもし?》
「もしもし…?」
《苓?》
「…あ、御幸?」
《そう、今どこ?》
「えーと、…西口の公園?」
《分かった、動くなよ》

え、なんで?
なんて聞く暇もなくそれだけ言うと、私の返事も聞かずにブツッと途切れた通話。


…何だ?


暗くなったスマホをバッグに入れ、ゆっくりとブランコに揺れながら、動くなと言った御幸を待つ。

フラフラとブランコに揺られながら、スマホをいじっていると、突如頭上に現れた影にゆっくりと顔を上げると、逆光で顔が見えない中、キラッとメガネが光ったような気がした。


「あ、お疲れー」
「ったく、待っててって言ったのによー」
「いや、待ってたじゃん」
「公園でな」
「校舎とか待つとこないし?」
「寮の一階とか、空いてんだろ」
「あー、なるほどね」


寮か。そこまで考えられなかったなぁ。というか、とりあえず暑い。

フラフラとブランコに揺られている私に、怒る気をなくしたのか、ため息をついた御幸は、隣のブランコに腰を下ろす。

身長が高いせいで、だいぶ足が余っちゃって、座りずらそうだ。
それがなんだか、少し可笑しかった。


「あー、そうだ。これどうぞー」


袋に入ったまま、隣のブランコに揺られる御幸に、手を伸ばす。それを受け取った彼は不思議そうに、袋の中を覗き込んでいる。


「もらっていいの?」
「どうぞー」
「サンキュ」


少しだけ嬉しそうに微笑んだ御幸は、袋からペットボトルを取り出し一口飲む。
私はその姿を横目で見つつ、足を伸ばしてぐっとブランコを漕いだ。


「そういや、どうだった?」
「ん?何が?」
「試合?」
「おう。」
「うーん、初めて見たけどさぁ。
いまいちよくわからなかったなぁ。」
「は?」
「でも、あのホームランはスカッとした」
「え?」
「打ったの、御幸なんでしょ?」

ニヤリと笑って彼を見れば、珍しく驚いたような表情をしていた。


「見えたのか?」
「まさか、打順6番て御幸でしょ?」
「そう、だけど」

なんで知ってんの。そうな顔をする御幸に、ははっと笑いなんででしょーなんて、再びぐっとブランコを漕ぐ。


「唯に聞いた」
「え?」
「さっきの電話で、唯に聞いたの」
「いつの間に」
「ベース回ってる御幸は、別人みたいだったよ」
「何?別人みたいにカッコよかったって?」
「そー、あたりー」



なんてケラケラ笑いながら、グッとブランコを漕いでスピードを上げる。


ブランコを漕いでいれば、顔の色なんてわからないだろう。
きっと赤くなっているだろう顔を、御幸に見られたくなくて、そんな雰囲気を出さないように注意して、前を見た。