「うわ、人がいた」

まじびびった…

雨の日の渡り廊下の柵に手をつき、ぼんやりと外を眺めようと体を預けると、すぐ下に人影が見えて思わず体をのけぞらせた。


私と反対側の柵に寄りかかってしゃがんでいた生徒は、私を見上げてあからさまに面倒臭そうな顔をした。


「よ。」
「サボりか」
「まぁな」
「練習行けよ」
「うっせ」


どこか覇気のない御幸をとチラリとみて、改めて手すりに腕を乗せる。


「何、もしかして落ち込んでんの?」
「お前、デリカシーねぇって言われるだろ」
「御幸にだけは言われたくない」
「それもそうか」



帽子を額に置き、顔を隠すようにして座っている御幸は、相変わらずだけど、やっぱりどこかいつもと違うような気がした。

なんか…。


「なんか御幸、弱腰すぎて気持ち悪いわ」
「あ? お前もうどっかいけ」
「そーしましょ。
…あ。」
「……」
「……」
「何だよ!」
「まさかさー、その沈んだ雰囲気のまま部活やってるんじゃないよね?」
「は?」
「他人の私が気付くんだから、あんたのチームメートには、バレバレってことでしょうよ。
チームの空気を壊すようなことしてどうすんのよー」
「やってるとは言ってねーだろ。」

そう言った御幸に、あからさまにため息をついてやれば、いつもの御幸なら言い返してきそうなものなのに、今日は何も言わず黙ったまま。


「この時間に、ここに一人でいる時点でやってるってことじゃん。」
「うるせーよ、もうお前黙れ。」

怒ったのかな、なんて思ったけどなんだか不甲斐ないその背中にイライラしてきて、口を閉じることは無理だった。


「周りを見ろよー」
「あぁ?」
「良くも悪くもあんたにはチームメイトがいるんだから、そいつら無視して勝手に落ち込んでんなって話だよ。」


御幸の隣に立ち彼を見下ろすと、いつもは見下ろされているせいか、とても新鮮だったけど、優越感には浸れなかった。


これだから無駄にプライドが高いやつは、ったく手に負えないわ。


「ったく何カッコつけて一人で悩んでんだ、ばーか」


捨て台詞とため息をつきながら、頭に乗せた帽子を押すと、すっぽりと頭に収まる。それでも御幸は何も言わず、しゃがみこんだまま前を見つめていた。


チラッとあの青い帽子を見下ろしながら歩きだした。なんだあれ、ヘタレか。