「また、スコア見てんの?」
「ん?」
「もう、昼休み終わるけど。」
「え!?」


唯の声に慌てて顔を上げ、黒板横の時計を確認すると、いつの間にかお昼休みは残り5分足らず。
確実のお昼を食べ損ねた。


「最悪…」



お菓子あったっけ…あ、今朝買ったグミがあったな。

笑って通り過ぎていった唯に、お菓子の催促もできず、バッグを漁り気がついたら空腹だったお腹を、なんとかグミで沈めるために、一つ口に転がす。

マスカットの香りが鼻に抜け、口の中が甘さで充満する。
とりあえず、50分だけ切り抜けらればいい。


なんて、もうひとつ食べようと手を袋に入れると、右から視界に入っできた手のひら。


…ん?


袋から顔を上げて、その手を辿れば御幸が机に頬杖をついて、こっちに右手を差し出していた。


「なにこの手」
「俺にもくれ」
「…グミだよ?」
「見ればわかる」
「甘いんだよ」
「知ってる」
「…食べるの?」
「食う」


いつも甘いものは一切口にしないくせに、今はグミを食べるという。


…何で?


不審しながらも御幸の手に、ぶどう型のグミを転がすと、すぐさま彼の口に運ばれ跡形もなく消えた。



「あんめ…」
なんて言いながら水で流し込んでいる御幸を眺めながら、私ももうひとつ食べようと手を入れれば、また手がやってくる。


「…何で甘いって言いながら、グミを催促するんだ君は。」
「腹減ってんだよ」
「…は?」
「昼飯食い損ねた」
「アホ」
「お前もだろ」
「スポーツマンのあんたと一緒にするな。ったく、放課後まで持つの?」
「多分もたねーな。だから、グミちょーだい」


にっこりと気持ち悪いくらいに微笑んでいる御幸、顔を引きつらせていると、「吉岡顔、どうした」と、横を通った倉持に言われ、私は奴の背中に紅葉をお見舞いしておいた。


「いってーな、なにすんだよコラ!」

マジヤンキー面の倉持を、「先に喧嘩売ったのはそっちだろ」と、睨み付けていると、ちょいっと手から袋の感覚がなくなった。


え、驚いて隣を見れば、私のグミが御幸の手の中にあって、一つぱくりと口を放り込む。


「あ!御幸、それ私の」
「こまけーこというなよ、俺とお前の中だろ?」
「どんな仲だよ。ただの隣人でしょ」


返せ!と立ち上がって、手を伸ばすも御幸が手を伸ばし頭の後ろでフラフラ動かすせいで、一向に袋が捕まらない。


「緋色ちゃん、ひどい。あの日のことを忘れるなんて。」悲劇のヒロインみたいに泣くふりをしながら、一芝居打っている御幸を無視し、「御幸、返せ!」と手を伸ばしたと同時に、キーコンと始業のチャイムが鳴り、先生が入ってくる。



「おーい、じゃれてねーで、すわんなさいよー。」

なんてニコニコ笑う世界史の先生に、慌てて席に着き、隣を睨めばニヤニヤしている御幸がいた。


先生、御幸くんを一発ぶん殴っていいでしょうか!








「なんてあいつらグミ取り合ってんの?」
「昼飯食い損ねたんだとよ」
「スコア見てて」
「スコアブック見てて」