最愛

「好きだよ、多分この世界の誰よりも」

そう困ったようにため息をついて微笑んだ彼女が、なによりも愛おしく、ベッドに座る彼女の手を引っ張った。

ベッドから落ちるように降ってきた彼女を受け止め、背中に手を回した。

「いやー、困った」
「え?」
「思ったより嬉しい」

そう言ってどこからか湧いてきた恥ずかしさに、額を彼女の肩に押し付けた。

「本当にいいの?僕と結婚しちゃって」
「え、言い出しっぺそっちじゃん」
「どうやら思いの外好きみたいだから、一応確認を」
「確認て…あんたの面倒くさいところは、残念ながら把握済みなんだけど」


どこか今更と言うふうな表情を浮かべる彼女に、何故か悔しくなって、太ももの裏に腕を回し、抱えるようにして立ち上がると、「うわっ」と色気皆無の声が聞こえて衣織は僕の肩に手を置いた。

軽く持ち上がってしまった彼女の軽さに驚きつつ、じっと見上げると、ニヒヒッとはにかむ彼女はそっと両手で頬を包むと目の下をゆっくりと撫でる。


ずり落ちたサングラスから覗く、その目が好きだった。慈愛に満ちた優しい目。高専時代から他人に容赦はなかったけど、人を貶したり蔑んだりすることを嫌い、よく言い争いをした。一方的に僕が悪かったんだけど。そんな一本筋の通った生き方が好きだった。

「明日にでも婚姻届出しに行こうか。」
「早っ」
「善は急げって言うでしょ」

彼女の気が変わる前に。と言う言葉は、ぎりぎりのところで飲み込んだ。本当に彼女の気持ちが変わったら、これまでの苦労が水の泡だ。せっかくうまいこと丸め込んだのに、それを台無しにするようなことはしない。


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