02

「ついたー。肩こったー。」
「それは俺のセリフだ。」
「悪いね黒尾くん。」

ペシペシと少し上にある黒尾の二の腕を叩いた。


最後の車内のわすれもの点検を終え、バスの階段の最後をぴょんと飛び降りるとぐっと背中を伸ばす。

ぐは、ケツが痛い。

首をグリグリ回していると、視界の端に呆れた表情をした黒尾が映った。



今年は、ここか。

なんてこれから始まる戦いを前に、のんきなこと思いながら東京とは違う、澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んだ。



「千櫂、行くぞ。」
「おー。」



多分、ゆっくりできるのは今くらいだろう。あと数時間もすれば、ここは地獄と化す。合宿とはそういうものだも、前回学んだ。

考えるだけで恐ろしいわ。なんて、ため息をつきながら、みんなの背中を見ながら歩き出した。

部屋にいた他校のマネちゃんは、去年と同じ顔ぶれで、相変わらずテンションが高い。久しぶりだとあまり思わなかったのは、おそらくRINEで連絡を取り何度か遊びに出かけたことがあったためだろう。

よろしくーなんて、軽く挨拶を交わし雑談をしながら体育館へ向かった。


「千櫂ちゃんはここ初めてだよね、わからないことがあったら私に聞いてね。」

「ありがと。」


そう言ってくれたには、森然のマネちゃんである真子ちゃん。


それに、どうやらここが初めてなのは私だけらしく、みんなに同じようなことを言われた。もう、ホントいい子達ばっかり。


「千櫂ちゃんは、この間の合宿は来てなかったよね?」
「うん、夏限定だから。」
「ふーん。
あ、黒尾くんに頼まれたんでしょー。」


にやりと笑ったかおりちゃんが、私に横腹を肘でつつきながら言う。その横では、ハッとしてキャッキャとはしゃぐ二人。



「え?
千櫂さんて黒尾さんと仲がいいんですか?」



なぜか目をキラキラさせながら、私とかおりちゃんに詰寄ってきた英里ちゃん(生川のマネちゃん)に「いや、普通だよ。」と言うと、会話を聞いていたかおりちゃんと真子ちゃんがニヤリと笑う。

「私は仲いいと思うなー。」
「私もー。」
「普通です。」


なんて言っても、「ふーん」とどうやら信じていないらしく、二人のニヤニヤは収まらない。


どうしてこうなったのかわからないけど、とりあえず勝手に盛り上がってはしゃぐ彼女たちに曖昧な笑みを浮かべつつ体育館に入る。


相変わらずムッとした空気にため息が出る、が合宿は始まってもいない。




「んじゃ、いっちょやりますかー。」

ケラケラ笑ってぐっと胸を張ったかおりちゃんの言葉を合図に、皆それぞれの学校の場所に散らばっていく。


そんな元気な彼女たちに感化された私は、少なくとも今までよりは気分良く合宿を始められそうだ。





彼ら元に近づいていくと、いち早く私に気づいた黒尾が小さく口元を緩めた。そして、私もそれに返事をするように、笑顔を浮かべ顔なじみが集まる赤い集団の元に急いだ。

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