*未読の方は,星の閨前編星の閨後編(R18)を読んで頂くとよりわかりやすいかと(タイトルにリンク貼ってます)。


「やあ,偽物くん。そこは俺が座る場所なんだ。不愉快だから消えてくれるかな。」
「・・・写しは,偽物とは違う。それに先に座ったのは俺だ。」

出陣前からトラブルの連続だった聚楽第だが,優の評定をもぎ取ったなまえの本丸。その結果,本丸一同がハロウィンの仮装をしていると勘違いしたあの監査官が配属された。その名は山姥切長義。なまえが貸し与えた数珠繋ぎの極守りをドヤ顔で首から提げて顕現した彼。それを見て,彼女が腰を抜かしたのは言うまでもない。

「ちょっとー!偽物写し論争はいい加減やめろって!」

他の本丸と同様,ここの山姥切達も些細なことで諍いを繰り返していた。男士お世話係の加州が注意しても効果はない。決着の見えぬ争いに,なまえが胃薬を手放せない日々が続く。

「本丸に来て早々,『審神者を肉奴隷にすることを禁ずる』って言い出した時は笑ったよねー。」
「そう?僕は嬉しかったな。」
「雛鳥みたいに主の後をぴったりくっ付いたり,意外と可愛い所があるよね。長船派っぽくないって感じ?」

山姥切達から少し離れた所で,加州と燭台切は栗の皮剥きをしていた。今日の晩ご飯は栗ご飯。加州が放った言葉に,本気で言ってるの?と燭台切は驚いた顔を見せた。

「昨晩,人の体に慣れなくて眠れないから一緒に寝て欲しいって主に強請ってたよ。」
「はっ!?監査官やってたくせに!?」
「そう。でも主は馬鹿だから信じちゃって。一応,嫁入り前でしょ?二人きりはまずいから,長船派一同で一緒に寝ることにしたんだけど。」

更にまずいじゃんと加州はツッコミそうになった。だが,隣にいたこんのすけが前のめりで聞き入っているので慌てて口を閉じる。

「僕達って本気になったら凄く出ちゃうんだよ。主,全員分を浴びたから大変だったみたい。」
「出ちゃうって,浴びたって,ナニが・・・」
「長船派は性別が女ないし雌であれば万物に優しくするのが信条だけど,本命となると相手を選ぶんだ。ちゃんと主を選んで僕は嬉しかったよ。別系統とはいえ,長義君は立派な長船派だ。」

親戚が増えたという意味で喜んでいたと思いきや,やはり燭台切は夜王だった。ゴクリと喉を鳴らして稲荷寿司を丸呑みしたこんのすけの鼻息が荒い。それもそのはず。最近,こんのすけと博多が猛プッシュしているネタが複数プレイなのだ。

「一体ナニをどのように出して浴びせたのか,そこのところ詳しくッ!」
「色気だよ。くたくたになって可愛かったな。主のお豆を皆で頂いちゃおうとしたんだけど,抜き身の刀持った三日月さんが乗り込んできて,首根っこ掴んで連れ去っちゃった。残念。」
「お豆ェ!?ワタクシは騙されませんぞ!本当は頂いちゃったのでしょう!?はぐー!」

金色の瞳を甘く細めた燭台切は,皮を剥き終えた栗が入ったザルを持って立ち上がった。長い足にしがみつくこんのすけがぶらんと揺れる。少し離れた所の山姥切達がまた諍いを始めたので,加州が仲裁に入ろうとしたその時。長船派を単騎で襲撃したというあの刀が帰ってきた。

「戻ったぞ。・・・何だ,随分騒がしいな。」
「三日月!お前,万屋行ってたんだろ?主に会わなかったの?」
「虎に跨がった女が供を連れているのは見かけたが。あんな珍妙女の元に俺がいたらと思うと不憫で涙が出たぞ。そうか・・・俺は俺自身の為に泣いていたのか。」

三日月がなまえを見間違えるはずがない。婉曲な表現でなまえを扱き下ろしているのだ。機嫌が悪い時の彼ほど面倒なものはない。加州は二人の間で何があったか聞くのを避けた。

「今日はまつえくの日だろ?ついでに,胃薬作る為の漢方を買うって膝丸と薬研を連れて行ったんだよ。五虎退の虎に乗ってるのは腰を痛めたから。風呂場で転んだらしいよ。」

人であるなまえは手入れが出来ない。そんな彼女が歩行困難になる程腰を痛めたというのに,三日月はザマア見ろと言わんばかりの顔をしていた。

「山姥切達の喧嘩を止めてよ。一応,初期刀だろう?俺が注意しても聞かなくて。」
「ぱすだ。俺は偽物写し論争に毛ほどの興味もない。それに,どこぞの珍妙女に傷付けられた心を癒やす必要があるのでな。」
「ぱすじゃねーよ!内番もぱすしたこと主にばらすからな!?主も甘やかしすぎ!眼精疲労だ老眼だって五月蠅いお前の為の漢方も買いに行くなんてさ!」

ピタリ。さっさと自室に引き上げようとしていた三日月の足が止まる。なまえとどんなに喧嘩していようが甘やかされて悪い気はしないのだろう。顔は見えないが,その背から機嫌が急上昇していくのが伝わってくる。

「全く世話が焼ける。主が買ってきたかすてらを用意してくれ。ざらめ付きだぞ?俺はざらめ付きしか食わんからな。」
「・・・世話が焼けるのはお前だよ。」


「複雑な思いがあるのだろうが,やれ偽物だ写しだと主の前で言うのは止めろ。」
「俺が居る以上,『山姥切』と認識されるべきは俺だ。そのことを教えてあげようと思っただけだよ。・・・一応,理由を聞かせて貰えるかな?」

内番服に着替えた三日月は戻って来るなり,山姥切達にきっぱりと言い放った。主の前ではという条件付きすら承服しがたいが,なまえに何かあっては不本意だ。人の身に馴れないと嘘を付いて同衾しようとした程気に入ってるのだから。長義は冷静に話の続きを促した。

「まつえくが何か知っているか?」
「睫毛に偽物の毛を植え付けることだろう?」
「やれやれ。言ったそばからこれだ。」

山姥切が自信満々に答えた横で,俺だって知っていると長義が口を挟む。女性であるなまえが主を務めるせいか,男士達のオシャレ知識はなかなかのものだ。三日月は態とらしく溜息をつくと,扇状に広がる長い睫毛に指を滑らせた。

「主は良い女だが所詮は人。俺達の様な睫毛にはならんのだ。少しでも長く美しくしたいと願う主に,お前の睫毛は禿頭に乗せたかつらのごとき偽物だと言うのか?」
「違う!俺はそんなつもりでは・・・」
「主は化粧もするぞ。肌や瞼に塗料を塗って,眉墨や頬紅も入れて口紅を差す。素顔も良いが化粧をした顔も良い。だが,お前達の理論で言うと,偽物すぎて福笑いのお多福なみに滑稽な顔というわけだ。」

次々に繰り出される難癖に,心優しい山姥切は黙り込んでしまった。テーブルの上に並べられた茶。静まりかえった空気の中,聞こえるはずのない湯気の音が聞こえてきそうだ。難癖じじいは洗練された所作でそれを飲むと,懐からある物を取り出した。

「これを見ろ。ここには綿袋が入っている。」
「可愛い・・っておい!お前,どこからそれを!?」

カステラを運んで来た加州は絶叫した。それもそのはず。三日月が手に持つのは,艶やかな青いサテン地のブラ。なまえに無断で拝借したことは明々白々で,事が明るみになったら彼女は本丸をブチ壊す勢いで暴れるだろう。だが,山姥切達は冷静にブラを見つめている。内側から取り出された半月型のもの手にとると,山姥切が不思議そうに呟いた。

「何だこれは・・防具にしては妙だな。」
「はっ。偽物君は無知極まりないね。それは,上げ底の偽物の胸を作るぱっどという道具だよ。」
「やれやれ。俺の話を聞いておらんな。主の乳は大きいから上げ底は不要だ。これは乳の形を美しく整えるためのもの。」

度重なる偽物発言にも三日月に怒った様子はない。黒文字で切ったカステラを口に運び,目を閉じてザラメのシャリシャリ感を堪能していた。もしザラメが溶けていたら山姥切達の身は危なかっただろう。三日月が怒るから絶対にザラメを溶かしちゃ駄目!と口を酸っぱくして言っていたなまえ。加州は主の有り難みを実感したのだった。

「お前らが偽物だ写しだと言う度に,綿袋で整えた乳が痛むだろうなぁ。美しい体を保とうとする可愛い努力も,お前達の理論で言うと,四六時中偽乳をぶら下げる偽物女なのだから。」

圧倒的な難癖に長義も口を噤んだ。自尊心が高いが,それは己が名刀であるが故。審神者思いの心根の優しい男士だ。だが,テーブルの上のブラを見つめている彼の口角が序々に釣り上がっていく。雲行きが怪しい。

「可愛いね。やはり俺を特別に思っているようだ。偽物君,君の負けだよ。」
「・・・写しは,偽物とは違う。一体どういう事だ?」
「この下着,俺の外套の裏地と同じ色だ。ここまで言ってもまだ偽物君はわからないのかな?」

止まることを知らない偽物写し論争。加州はビクビクしながら三日月の顔色を窺ったが,彼は何の関心も示さずカステラを頬張っていた。

「人の女は好いた男に抱かれるために特別な下着を用意するものなんだ。好いてもない男の色に染まりたい女がどこにいる?」
「成る程なぁ。」

政府勤めの賜物か,はたまた長船派の流れを汲むからか。下着に忍ばせた女心について,長義は山姥切に解説した。ここで初めて,カステラにご執心の三日月が反応を示したが,その感情が籠もっていない口ぶりに長義が片眉をあげる。しかし,それは詮無き事。なぜなら,三日月はなまえの超勝負下着が純白であることを知っているからだ。

「お帰りー!って,主はどうしたの?」
「・・・まぁ,腰痛が悪化しちまってな。部屋で休ませた。」

なまえと共に出掛けた薬研と膝丸が帰ってきた。ところが,薬研は何とも言えない含み笑いをし,膝丸は眉をしかめ微妙な顔をしている。

「五虎退の虎に乗った大将に向かって,『跨がるなら俺の背中に』と這いつくばった男がいたんだが・・・」
「不審者じゃん!主の前でぶっといのをお見舞いしちゃったの?」
「その前に酒屋の苦無が飛んできてな。『失せろ,偽物が!』と男が被ったかつらを苦無で剥がしてしまったのだ。流石は元遡行軍,慈悲の欠片もないぞ。」

聞くだけで身震いがする地獄絵図。男の禿げた頭を見て驚いた五虎退の虎が暴れ,その背から転げ落ちたなまえは腰痛を悪化させたらしい。

「禿げた頭見た大将が『マツエクもかつらだ』って落ち込んでな。ったく間が悪いぜ。」
「・・・まじかよ。まつえく止めたの?」
「いや。より美しくなった君を見ながら,たぴおかが飲みたいと告げて送り出した。」

三日月の難癖が現実化した事もそうだが,膝丸による百点満点の返しに加州と山姥切達は驚愕した。普段は胃が痛いとなまえに甘えているが,決める時は決める源氏の重宝。そんな中,カステラを食べきった三日月が腰をあげる。

「珍妙女の周りには変な男が集まるな。どれ,この美しい顔を見せてやるか。」

皆が発した,お前が言うなという視線などどこ吹く風。異次元の鈍感力が備わった変な男は,なまえが休む部屋へと向かった。


「腰の調子はどうだ?心労が祟ったせいで俺は目の疲れがとれん。」
「誰のせいだと思ってるのよ!?あんな何時間も,う・・上に乗せられて腰を振らされてっ!痛ッ」
「首が繋がっているだけ感謝しろ。」

なまえの腰痛の原因は風呂場での転倒ではなく,長船派にお豆を頂かれちゃいそうになったことに対するお仕置きだった。なまえは腰の痛みに顔をしかめながら,戸棚から濃い紫色の液体が入った瓶を三日月に押しつけた。

「ブルーベリー酒。漢方よりこっちが良いでしょ,あげる。」
「ややっ。これは嬉しいなぁ。」

三日月はなまえを抱き込むと,くちゅりと音を立てながら彼女の腔内に舌を巡らせた。甘い。心地良い舌の動きに身を任せていたなまえだが,我に返ると慌てて唇を引き剥がす。

「昨日はっ!キス,しなかったくせに!」
「仕置きだからな,俺も辛かったぞ。でも今宵はたっぷり吸ってやるし,お前が一番舐めて欲しい所もうんと舐めてやる。」
「舐めっ!?やめてやめて!絶対しない!股が裂けるッ」

ブルーべリー酒に大層気を良くした三日月は,今夜もなまえを抱くつもりらしい。桜を舞わせてはしゃぎながら,彼女をぎゅっと抱き締めて何度も口付けを落とす。モコモコした違和感。なまえは彼の懐が盛り上がっているのに気付いた。引っ張り出した物を見たなまえはーーー

「・・・おい,鉄クズ」

22 賽は投げられたB



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