あなたとルナティック 1



「ほーんとジルコンの持ってくる子ってイモばっかよね」
「まったく。はずれクジの中から当たり引けったって無理な話ですよ」
不満たらたらなふたりの横をフィッシュ・アイはぶらぶらと歩いている。
「ねえ、アンタもそう思うでしょ?」
「ん?んー・・・男の子はなかなかイケてると思うけど?」
やだわこの子もジルコンと同類かしら、とタイガーズ・アイは呟く。
「ちょっと、それどーいう意味よ」
「そのままの意味に決まってるじゃないの」
「なによ、ホークス・アイまでタイガーの味方なの!?」
「だって僕たち恋愛対象は女性ですもん」
ねー、と顔を見合わせる彼らをフィッシュ・アイはぎりりと睨む。
「・・・の割に選ぶのはほんっと趣味悪いのばっかよね」
「だから最初っから言ってるでしょ?イモしかいないって」
「そうよ、これでもマシなの厳選してるんですからね」
「とか言っちゃって、僕知ってるんだからね。ホークス・アイが気に入ったオバサマの写真こっそり持ち帰ってるの」
「んなッ、なんでアンタがそれを知ってんのよ!」
「アンタ収集癖あるもんねえ」
「なによ、カラスと一緒にしないでくれます!?」
その時、
「やかましいッッッ!!!」
突如響き渡ったジルコニアの声に三人は身をすくめた。
「アマゾントリオ!」
短く返事をして反射的に頭を下げる。
「貴様ら、ずいぶんのんびりとやっているようだな・・・」
この大馬鹿者らめがッ、とジルコニアは一喝した。
「ッ」
フィッシュ・アイがびくりとふるえる。
「申し訳ございません、ですが」
とりなすようにホークス・アイが口を開きかけた時だった。
「今日からグズでノロマな貴様らのサポートをさせるために人間をひとり雇い入れた」
「は・・・はァ?」
人間、とタイガーズ・アイがくり返す。
「ですが、」
「言っておくが、召使いなどと勘違いするでないぞ。ペガサスを見つけ出すという目的、ゆめゆめ忘れるなよ」
ジルコニアのまなざしが細められるのを見て、ふたたび彼らはこうべを垂れた。
相手の気配が消えたのを確認して、おそるおそる頭を上げる。
「どういうこと?」
「知りませんよあんなもの急に」
「サポートって言われても・・・困るわ」
けんかもするし、いがみ合うことだってあるものの、手柄を取り合う関係ではない。
なんだかんだ言いつつも調和のとれている三角形が崩れることを誰も望んではいないのだ。
けれど、
「かっこいい男の子だといいわあ」
「やーだ、男なんかが来たら僕ぜったいにいじめてやるわよ」
「そうそ、やっぱり暇をもてあました有閑マダムなんかが来てくれるといいんですけどねえ」
それ最悪、とふたりの声が重なる。
「なんです、」
「ま、やっぱり僕の守備範囲の子がくる可能性が一番高いんじゃないかしら」
「イモ娘ね」
「ちょっと!」
「ま、いいわ」
期待しないでおきましょ、とフィッシュ・アイは肩をすくめた。

***

バーのカウンターには、見慣れぬ後ろ姿。
ちょっと、と思わずタイガーズ・アイはホークス・アイの肩をつかんで揺さぶる。
「女の子よ!」
「見りゃわかります。でも、若作りのおばさまかもしれないわよ」
男の娘かもよ、とフィッシュ・アイがささやく。


「あっ、女の人いるんじゃないですか!ジルコニアさんたらここにはオスしかいないって言うから」
オスって、と目を丸くしたフィッシュ・アイが呟いた。
「ずーいぶんキャピキャピしたの寄こしたんですねえ・・・」
どお?とホークス・アイは投げかける。
「あなたのタイプど真ん中でしょ?」
「そおねえ・・・顔はめちゃくちゃどストライクなんだけど・・・」
なんというか、反応が子供なのだ。


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