セラムンss



襲いかかってくる悪夢の権化。恐怖から逃げるため必死に足を動かす私の前に立ち塞がって、恐ろしい姿はニタニタとあざ笑う。
「見つけたア」
すべてに絶望した瞬間、
「!」
突然まぶしい光が破裂した。きつく目を閉じた瞬間、ふわりと体が宙に浮く。
そして、
「大丈夫かい・・・子猫ちゃん」

***

ぽやんとしている#name1#ちゃん。今日は1日中あんな感じだ。
うさぎちゃん家で集まって話を聞くうちに「あーウラヌスにまいっちゃったのね」と納得する。
「今日は夜天くんたちが休みでよかったなあ・・・」
まこちゃんの言葉に私たちはうんうんと頷く。今をときめくアイドル夜天光の秘密の恋人の頭の中は、スカートを履いた王子様でいっぱいだ。
するとチャイムが鳴って「はいはーい」とうさぎちゃんは廊下へ出て行った。
「え!?」
ぎょっとした声。
「よっお団子」
「アンタなんで来てんの」
亜美ちゃんが「なんでスリーライツが・・・」と呟く。隣で分かりやすくそわそわするレイちゃん。
「冷たいこと言うなよ、ハイこれお土産のケーキ」
「えっケーキ!いいの!?」
手放しで喜ぶうさぎちゃん、おいおーい。
「うさぎちゃんチョロだよ・・・」
苦笑いするまこちゃん。
はっ。
「・・・」
「・・・」
多分同じことを考えたレイちゃんと目が合う。
これが原因でふたりが別れたらもしかして私たちにもチャンスが・・・?
「・・・ゲスいこと考えるのはやめましょう」
「そうよね、うん・・・」
おじゃましまーす、と星野くんを筆頭に3人がリビングに顔を出す。
「あれ、#name1#がいる」
当然のように隣に座った夜天くんに#name1#ちゃんはびっくりしている。
「夜まで仕事だったんじゃなかった?」
「ボクがここにいたら不満なの?」
不満そうに聞き返した夜天くんは「たまたま早く終わったの。そしたら星野が月野のとこに行くって言うからついてきただけ」と答える。
「そうだったんだ」
「そう。あー疲れた」
そう言って夜天くんは#name1#の肩に頭をもたせかけた。う、羨ましい・・・。
すると再びチャイムの音。ケーキを分けていたうさぎちゃんが「誰だろー?」と玄関へ向かう。
「はっ、はるかさん達!?」
紅茶を飲んでいた私は思わずむせた。
「美奈子ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫・・・」
大丈夫じゃないのはこの状況だ。分かっているからみんなもおろおろしている。
「ずいぶん靴があるのね。もしかしてどなたかお客様かしら?」
「あっ、えーとそうなんですハイ!」
すると「はるか?」と星野くんが呟く。
「ソイツって・・・」
まずい・・・!
「これ良かったら。私が焼いたマフィンなの」
「みちるさんのマフィン・・・!」
みちるのマフィンは最高なんだよ、と爽やかな声がする。
「まあ、はるかったら」
「ありがとうございます、みちるさんっ!」
ひょいっと星野くんが顔を出した。
「あら、」
「げっ」
「やっぱりそーだ。お久しぶりです、海王みちるさん」
星野光、とはるかさんの苦い声がした。
「上がってもらえよお団子。ケーキならたくさんあるだろ?」
「アンタ人んちでえらそーに・・・!」
「いいのよ、大勢で上がり込んだら悪いもの」
しかしはるかさんは、
「いや、お言葉に甘えて上がらせてもらうよ」
と答えた。
「あちゃー・・・」
「#name1#ちゃんの王子様がばれたらやばいんじゃないの・・・」
「亜美ちゃんいい知恵ないかい?」
「さすがにスーパーコンピューターでも無理ね・・・」
そしてとうとう、
「やあ。久しぶり」
来てしまった。
「・・・あれ」
君は、とはるかさんは呟く。頭を持たせかけていた夜天くんは訝しげな視線を向ける。
「・・・ふうん、そう。そういうこと」
「なに、いきなり」
別に、そう答えてはるかさんは私の隣に座った。
「あ、あちらのお席のが広いですよ・・・」
「僕の隣はいや?」
「そっそんなことないですう!」
思わず声が裏返る。そのささやきは反則よ!
「近々コンサートを開かれるそうですね。またぜひ共演していただきたい」
「ふふ、そうね。あの時は楽しかったもの」
穏やかなトーンで会話をする大気さんとみちるさん。ばちばちと視線を投げ合う星野くんとはるかさん。
「そういえば君、足首を痛めているんじゃない?」
突然尋ねられて#name1#ちゃんは驚いた顔をする。
「なんで知って・・・?」
「なに、#name1#怪我してるの?」
夜天くんに聞かれて#name1#ちゃんは「ちょっとだけ」と答えた。
「変な、あの、よく分からないんだけど・・・とにかく追いかけられた時に助けてくれた人がいて、それで・・・」
かっこよかった?とはるかさんは尋ねた。
「かっ、こよかったです・・・」
「・・・ふーん、あっそ」
ぴしり、空気が凍る。星野くんたちは私たちがセーラー戦士だってことは知ってるから、助けたのがウラヌスだと気づいたらしい。
#name1#ちゃんを除いて。
みちるさんは「ホント退屈しないわ」と薬と笑った。
「あの、でもさあ夜天くんもかっこいいよね!アイドルだし!」
うさぎちゃんの明るい声に「そうそう!」と乗っかる。
「新曲もすっごい良かったよ!」
「それにドラマも!」
大気さんは苦笑いを浮かべている。けれど、
「助けてくれた方はなんて?」
というみちるさんの質問に、
「かばってくれて、あの、こ、こ、こ・・・」
動揺して照れている#name1#ちゃんが言わんとしている言葉がはっきりと理解できる。子猫ちゃんね。
こぶしをきつく握る夜天くん。
「ですってよ、はるか」
「ふ・・・そうかい」
ニヒルな微笑みを浮かべてみせるはるかさん。
「きっとまた会えるさ、すぐに・・・ね」
「ほんとですか・・・?」
期待に満ちた#name1#ちゃんを夜天くんは、
「無理だね。絶対に会えない」
とバッサリ切り捨てた。
「夜天、あんまりいじめないの」
そっとたしなめる大気さんに夜天くんは抑えに抑えた声で、
「ぼ、く、も!こないだ助けてやっただろ!」
と主張する。
「あの時はほら、暗かったから・・・」
「見えなかったって言うの!?どんだけ鳥目なわけ!?」
はるかさんは、
「ぽっと現れた相手に恋人のハートを奪われるなんてね・・・君、たしかアイドルだったっけ?」
火に油、どころかマグマに石油を注いだ。
夜天くんは#name1#ちゃんに向き直ると真剣なまなざしをして、
「絶対に会わせてあげない。けど、君がまたピンチになった時はもっと強くてカッコいいやつが助けに行くから」
と言った。かっこいいわ夜天くん・・・。
「それってもしかして夜天のこと?」
「それは・・・内緒」
みちるさんは、
「きっと今度はヒーラーにお熱になるわね。ねえはるか」
と笑う。
「本末転倒だな」
「君たちが女の子じゃなかったらぶっ飛ばしてるよ」
「まあまあ夜天、そのへんで。せっかくケーキもマフィンもあるんですし」
そーよそーよ、と手を合わせるうさぎちゃん。
大事にならないでよかったわ、とほっとしていると、夜天くんと#name1#ちゃんがテーブルの下でこっそり手を繋いでいるのが見えた。お熱いことで。


「なまえ、大丈夫!?」
「あらら・・・まただめでしたのね。失敗」
「あんた、なまえに何したの!?」
「ご心配なく。彼女は今回のターゲットではありませんでしたの。ま、でも探し物かどうか見てあげてもよくてよ」
「ヒーラー、大丈夫よ。気を失っているだけだわ」
「だけど、こんなに膝をすりむいてるじゃないの・・・よくもやってくれたわね!」
「それは私と出くわす前に、派手に転んでいた傷ですわ」
「そう?なら濡れ衣については謝るわ」
「律義な子ね」
「でももし次にこの子を傷つけてみなさいよ」
「くすくす、あら、なんですの?」
「その時に私がなにをしでかすか、自分でも分からないわよ!」
「おーこわ」
「ファイター、茶化さないの。あなたも、今のうちに謝っといたほうがいいわよ」
「えっ」
「あの子キレると怖いから・・・」
「そうそう、ケツ蹴られるわよ」
「絶対に許さないから!覚悟しなさいよ!」
「ヒーラー、近所迷惑だから吠えないで」
「な、なんだかよく分からないけど今日のところは退散しますわ!」


「#name1#は夜天のどこを好きになったの?」
「どうしたの?いきなり」
「だってあの子すっごく気まぐれなところあるわ」
「まあ、でもそういう性格なんだろうなって」
「えらいわね。だけどたまに態度がでかくない?」
「そりゃ・・・だけどそれも性格かなって」
「心広いわね。しかも低血圧だから朝はとにかく機嫌が悪くて、たまに無言で殴ってくるし」
「ええーそうなの?」
「そうよ。おまけに自分が借りたDVDを私に返しに行けって言うし、「ゴミ捨てといて」とか「立つならみかん持ってきて」とか人使い荒ぎるのよ。それに神経質でカーペットの毛玉とかすごい気にするし。水回りの汚れもだめ。ねえ、どこに好きになる要素があるのか教えてくれない?」
「ファイター、いい加減その口閉じて」


収録。
「それでは、ここからはスリーライツのプライベートについてお聞きしても?」
「お話できることなら」
「なんでもどうぞ!」
「ではさっそくですが・・・3人の中で1番怒りっぽい性格なのはどなたでしょう?」
「「夜天」」
「即答でしたね。なにかエピソードはありますか?」
「エピソードというか・・・先日は脱衣所が暑いと言って怒っていました」
「ふふ、きっとお風呂上がりだからですよね。星野さんはいかがですか?」
「こないだトイレに入ってたらいきなりドア蹴られてびっくりしましたよ!どんだけ焦ってたんだっての、」
「すみませんちょっと止めてもらってもいいですか?・・・星野!」
「?なんだよ」
「アイドルはトイレ行かないでしょう!?」
「行くわ。いつの時代のアイドルだよ」
「イメージダウンは避けたいんです!」
「分かったよ・・・すいません、今のナシでお願いします」
「すみません、こちらの事情で」
「分かりました。他にはありますか?」
「他?そうだなあ・・・あ、最近は俺が風呂に入ったあとの排水溝が汚いとか」
「星野!すみません止めてください」


「ちょっとちょっとお三方!見たわよこないだの女装写真!」
「愛野、その言い方やめて」
「ジェンダーレスな衣装の時のですね。そういえば今日が発売日でしたっけ」
「美奈子ちゃん買ったの!?見して!」
「あたぼうようさぎちゃん!こちとらファンクラブ入ってる筋金入りのファンなんだから!はいよ」
「そのアイドルと当たり前のように会話してる不思議ですよね・・・」
「えーすっごーい!お、女の人だ・・・!」
「夜天は特にカメラマンからも絶賛されてましたから」
「ふっ、まあね」
「うんうん、夜天くんは可愛いわ。これアブナイ男性ファン増えるんじゃないの?」
「そうかな、まいったね」
「全然まいった感じが伝わってきませんけどね」
「あ、これ大気さんだ!すごい、スーパーモデルみたい」
「この角度にこだわってるのはどうして?」
「私は特に華奢というわけではないので・・・どうしても角度やポージングが限定されるんですよ」
「あーなるほど」
「それにしたって綺麗すぎるわ・・・自信失くしそう・・・」
「おいお団子、早く俺のページ!」
「わーかってるって、そんなに急かさないでよ。星野は・・・ウン・・・」
「あー・・・」
「どうだ?」
「星野ってさ・・・」
「おう」
「ほんと男前だわ・・・」
「 お、おお?サンキュ・・・?」
「うさぎちゃんの正直な感想に戸惑ってるわ」
「僕らにはフォローのしようがないよ」
「土台が土台ですからね」


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