セラムンss・2



「2カ月ぶりだね」
「ん?」
ああデート、と彼は呟く。
「学校で顔を合わせることだってあんまりないもんね」
「忙しくてさ。いつになったら暇になんのかね」
ため息をつく恋人の人気は落ちるどころか上がる一方だ。
「でも、夜天くんはいつでも連絡くれるからあんまり寂しくないよ」
「そ。それなら良かった」
くい、とキャップて目元を隠すけど、本当は照れているのを知っているから笑顔が浮かぶ。
「あ。ねえ」
「ん?」
「あそこ、新しくできたジューススタンドなんだよ」
すれ違う女の子たちのほとんどがあそこのドリンクを手にしている。
できかけている列を遠巻きに眺める夜天くんに、
「ちょっと買ってくるから待っててね」
と告げた。
「あ、僕が行く」
「ううん、大丈夫。万が一ばれたらまずいし。その代わり私のおすすめになるけどいい?」
「・・・いいよ」
彼が肩をすくめたのを見て、私は最後尾に並んだ。

***

「お待たせ」
「おかえり。へえ、おいしそう」
水滴をまとったカップを受け取った彼は、さっそくストローを口に含んだ。
「どう?」
「ん、おいしい」
夜天くんの隣に腰を下ろしてその時、ふいに日ざしが翳る。
「あのー」
もしかして、スリーライツの夜天くんですか?
「(あ、まずい)」
すると、
「行くよ」
夜天くんはいきなり私の腕をつかむと歩き出した。
「写真、撮られちゃう」
「いいよ別に」
こんな後ろ姿どうせ誰だか分かんないんだから、そう彼は吐き捨てる。
そしてバッグからマスクを取り出すと手渡して言った。
「メイク気になるかもしれないけど、付けてもらえる?君の顔が出たら困る」
大人しく彼の言葉に従う。
スタンドからずっと離れた場所まで来ると、ようやく足取りはゆっくりになった。
「・・・ごめん」
立ち止まった夜天くんは私に向き直る。
「僕が普通じゃないから、君がこんな目に遭う」
「夜天くん」
「まともに会うことさえできない」
そう呟いた彼にかける言葉が見つからないでいると、「あーもうっ!」と夜天くんは叫んだ。
「こうなったらさっさとプリンセスを見つけて君を連れてキンモク星に帰る」
「ええ、」
「いいよねそれで」
きっとした決意に満ちたまなざしを向けられた私は、
「はい」
と思わず頷いた。


「(あと5分か・・・)」
目深にかぶった帽子はつばのひろいタイプ。
今日は曇りだから、浮いてしまうサングラスの代わりだ。
それなのに、
「ねー君ひとり?」
「(なんでよりによって男からナンパされるかね・・・)」
忙しいスケジュールからなんとか時間をひねり出してるってのに、どうしてこんなやつの相手をしなきゃなんないんだ。
「ねーねー」
「うるっさいな、あっち行けよ」
「気が強いとこもいーじゃん」
はア?
思わずぐっとこぶしを握った瞬間、
「お待たせー」
とのんきな声が響いた。
「あ、お友だちもかわいーじゃん」
「寄るな触んなどっか行け」
最っ悪。なんてタイミングで来るんだ。2時間くらい遅れてきてもいいのに。
ひどいなーとへらへら笑う相手を睨みつける。
「?お知り合い?」
「なわけあるか!行くよ」
「君たちふたりとも超かわいいじゃん?」
目医者行け、と夜天は吐き捨てた。
「これ以上絡むなら前歯を折ってやる」
あっけにとられている相手を残し、僕は恋人をうながしてその場を後にした。


- 174 -

*前次#


ページ: