ダイヤモンド・ジューン



「何見てるの?」
なまえが眺めている雑誌をフィッシュ・アイは覗きこんだ。
「きゃー、可愛い!」
素敵なドレスばっかりじゃない、と彼は感嘆の声を上げる。
「可愛いですよねー」
「いいなあ、僕も着たいわあ」
「(あ、やっぱり着る側なんだ)」
フィッシュ・アイはなまえの手から雑誌を取り上げると真剣な表情で読み始める。
「ねー私にも見せてくださいよ」
「あ、ごめん。取っちゃった」
こっちおいで、と招かれるままなまえは彼の隣に身を寄せた。
「やっぱりプリンセスラインは可愛いわね。だけどシンプルなAラインもマーメイドも素敵」
豪華なヴェールに可憐なワンピース、ヒールは12pが鉄板。
「いいなあ」
「なまえも着たいの?」
「もちろん。一応女の子ですから」
一応って言っちゃうんだ、とフィッシュ・アイは笑う。
「だって三人とも、いつもネンネちゃんってからかうから」
「心配しなくてもなまえはちゃんと女の子よ、僕が保証する」
「心配はしてません」
「そお?」
もう、となまえは頭を彼の肩に預けた。
「ふふ、」
「ん?」
「カノジョってやつみたいだわ」
フィッシュ・アイはそっとなまえの左手に触れる。
「真実の愛の証がこの指に輝くのね。憧れちゃうなあ」
「フィッシュさんて、やっぱりお嫁さんになりたいんですか?」
は?と彼は怪訝そうに言った。
「あのさ」
「はい」
「君には僕が女の子に見えるの?」
「えっ」
どっちよ、と身を乗り出す彼になまえは「男の人です!」
と答える。
「そうよね、そうよ。僕は着せてあげる側なの。だからね」
今から予約しとくわ、とフィッシュ・アイはまるで宝物を閉じこめるように薬指を包みこんでみせた。


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