仕事ができるわけでも飛び抜けて早いわけでもないが要領は良い。
正義感は強く細かい書類系の仕事は苦手。
ぶつくさ文句を言ってくる時は飯を奢って黙らせたりということも暫し。
最初の頃は降谷さんとぶつかることがしょっちゅうで都度愚痴を聞かされたりもしたが(何度降谷信者と言われたかはもう覚えてない)が最近は二人の間に今までと違う妙な空気を感じることが増えてきた。

降谷さんがなまえに向ける眼差しとか、なまえの顔を見ればだいたい察することはできるが俺の苦労は依然として多い。

それはだいたいなまえのこの突拍子もない性格からきてるのだが、


「明日休みですよね?私の婚約者って事で親に会ってください」

「寝ぼけてるのかお前は」


これから降谷さんが出勤だというのに何を言い出すこの女。空気を読め。しかも休みの日にメガネにパーカーでここまでくるとはある意味、すごい、悪い意味で行動力が。


「降谷さんに頼めばいいだろう」


事情を聞いても引き受ける気はさらさらなく。
俺の言葉に明らかな動揺を見せたなまえに、ここまでわかりやすいと少しからかいたくなる降谷さんの気持ちがわかった気がした。

扉の向こうに気配を感じ、囁くようになまえに
耳打ちをして部屋を後にする。

案の定、降谷さんと鉢合わせした。


「お疲れ様です降谷さん。頼まれていたデータは先程送っておきました」

「ああ、ご苦労だったな。どこか行くのか?」

「はい。昼ご飯を買いにコンビニへ」

「そうか」

「……。あの、聞こえてたかとは思いますがなまえ、きてますので」


実のところはそんなに腹は減っていないが。
明らかに邪魔になるだろうと気を使ったのは多分、読まれているだろう。
なかなか部屋に入ろうとしない降谷さんに無意識に背筋が伸びた。


「風見には、随分と心を開いているようだな。アイツは」

「!!いえ、そんなことは全く」

「明日は俺も休みがとれないんだ、けど」


なんとかしておくよ、と微笑んだ降谷さんに間違っても引き受けなくてよかったと。

長引くかもしれないから、その後コンビニはやめて喫茶店へと向かった。








問題の次の日、俺の久々の非番は特にスマホがなることはなく、無事に一日ゆっくり休めた。
なまえの方も降谷さんがああ言ってたし特に心配しなかった。

だがしかし、問題が起きたのはそのまた次の日。

珈琲を淹れてディスクに戻ったら、何やら手に持った紙切れをじっと見つめてるなまえが目についた。

あえて声はかけずスルーしてたら、向かいのディスクから刺すような視線が。


「…なんだ。仕事をしろ」

「風見さん、これ。昨日母親から渡されたんです」


なまえが見せてきたのは箱根温泉のチケットだった。しかも2枚。


「絶対俺を誘うなよ」

「誘いませんよ!…昨日、母親に婚約者がいるって言ったら上機嫌でじゃあ二人で行ってきなさいって渡されて」

「生憎だが暫く休みもとれないぞ」

「ですよね、よかったあ」


何故かほっと胸を撫で下ろしてるなまえを見て、最初は疑問に思ったがすぐわかった。

そもそも誘う勇気がないのか、降谷さんが忙しい人だからとかは関係なく。

「園子ちゃんにあげよ」と言ってやっと仕事を開始したなまえに、俺も自分の仕事に手をつけようとしたらスマホが震えた、降谷さんだった。

午後、合流する予定だから、メールにその場所が記されていた。

そして文面から察するに、これは多分機嫌があまりよくない。

明日から暫く潜入調査があるのが原因か。


返事をしてスマホを閉じる。俺は徐になまえを見た。


「俺が降谷さんを誘ってやる」

「え?」

「温泉旅行の話だ」

「…え。男二人で行くんですか。まあいいですけど」

「違う!お前が降谷さんと行けるように俺が頼んどいてやる」


普段、散々迷惑かけられてるからな。
たまには俺がなまえを利用してやる。


とりあえずこれで降谷さんの機嫌もなんとかなるかな。



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露草