今何勤目だっけ?寝たい休みたいとは言えず馬車馬のように働いて、やっと、やっと勝ち取った休日。
今日は私が休みで明日が風見さんが休みと。

一応スケジュール帳に書いとこなんて珈琲を飲みながら優雅に久々の休日を謳歌したら震えたスマホ。

風見さんか、はたまた降谷さんか。
恐る恐るロック画面を開くとどちらでもなく、もっと最悪な事態だった。


「明日、見合い写真を持って上京しますー……見合い!?しかも明日!!!」


突然の通知に飛び上がって慌ててLINEを開いたらどーでもいい飲食店からのメッセージに埋もれて、何ヶ月も前から母親から大量のメッセージがきていた。全く気づかなかった。

彼氏、とかそろそろ結婚、とかいうワードがやたらと多いメッセージと共に最新で先程の通知のメッセージが。


やばい、これはかなり。


結婚しなくても幸せになれるこの時代、20代半ばの娘に見合いどーのと言うだけあって昔から厳しい親だった。早く孫の顔が見たいのはわかるけど仕事辞めたくないし、それに降谷さんのことだって、まさか親に紹介したいなんて言えないし、第一正式に恋人ではないしっ、


「って、降谷さんのことは、とりあえず置いといて」


すっぴんメガネのまま、急いでパーカーだけ羽織って向かったのは昨日まで家よりこもってた職場。
頼るべきは毎度お馴染みの人ただ一人。

目の下に隈を作った風見さんは私の姿を見るなり目を剥いた。


「どうした、ここはベッドルームじゃないぞ。夢遊病か?」

「違いますよ失礼な!私だって休みの日までこんなとこ来たくないですよ、けど…!」


今にも泣きそうな顔で風見さんを見たら珍しく、心配そうに落ち着けと温かいお茶を持ってきてくれた。
明日の天気は槍ですかねなんて言ったら今から頼む願いが玉砕するから口が避けても言わないけれど。


「風見さんにお願いがあります」

「断る」

「はや!まだ何も言ってないですよ!」


どちらにせよ玉砕!


「お前の頼み事がまともだった試しは一度もないからな」

「明日休みですよね?私の婚約者って事で親に会ってください」

「寝ぼけてるのかお前は」


久々に分厚いファイルで頭を叩かれた。
顔を上げると風見さんは隈もあいまってとんでもなく恐ろしい顔になってるけどこっちも後には引けないわけで、


「見合い写真持ってわざわざ上京してくるんですよ!手頃ないい人がいれば諦めると思うんでそこをなんとか」

「貴重な休日をなんで仕事より面倒なことに使わなきゃならないんだ、断る」

「友達も少ないし、こんなこと風見さんにしか頼めないんです…!」

「降谷さんに頼めばいいだろう」


風見さんの口から降谷さんの名前が出るとは思わず、目を瞬いた。
普段は降谷さんに面倒事をかけるな、降谷さんはお忙しいんだ、が口癖の降谷信者なのに。なぜ俺だと言わんばかりの呆れたような眼差しが刺さる。


「だ、だだって、それこそなんで降谷さんを」

「少しは動揺を隠せるようになれ、降谷さんほどしゃないが俺も忙しいんだ」


ぽんと私の肩に手を置いて、それとっと風見さんが耳元に顔を寄せる。
「引き受けでもした俺の身にもなってくれ」と囁かれ振り向いた時には部屋を出て行ってしまった。
風見さんが勘がいいのか、それとも私がわかりやすすぎるのか。
どこまで知られてるのかわからなくて、じわじわ熱くなってきた顔を抑えて固まってると再び扉が開いた。


「か、風見さん!まだ話は終わって…!」

「風見じゃなくて悪かったな」

「っ!?」


思いもよらぬ展開に思わず椅子から飛び上がった。
かけていたメガネが床に落ちて、自分がすっぴんだった事を思い出して慌ててその場にうずくまる。


「オーバーというか…忙しいやつだな。メガネ、落ちたぞ」

「だって、なんで降谷さんが」

「自分の職場にきて何が悪い」

「風邪はもういいんですか?」

「いつの話してるんだ、一ヶ月前の話だろそれは」


降谷さんに会うのがそれ以来だったから。
自分の職場というわりに神出鬼没だし、というかさっきの話はどこから聞かれてたんだろう。


「残念ながら俺は明日休みじゃない」

「っ!降谷さんには頼みませんよ、安心してください」

「なんで?」

「はい?」

「なんで真っ先に頼まない?」


予想外の言葉に顔を上げれば降谷さんがすぐそこまで迫ってきていた。
驚いて床にお尻をつくと降谷さんも目線を合わせるようにその場にしゃがんでじっと見つめてくる。


「だって、降谷さんは忙しいから…」

「だからって風見にしか頼めないことないだろ」

「最近は一番一緒にいる時間も長いし、それに降谷さんをわざわざ親に紹介する方がハードルが高いというか…」

「それで?」

「そ、それで?」


なんていうのか正解なのか。なんだか今日は降谷さんが全く引き下がってくれる気配を感じない。

最近は色々あって少し距離は縮まったけど、嘘でも親に会ってくださいなんて言う勇気なかった。重いとか思われたらやだし、第一正式に付き合ってるわけでもないし。私なりに色々考えてるつもりだったんだけど。

そーいう遠慮とか、全部見透かされてんのかな。



「俺は、なまえが思ってるほど大人じゃない」


懐から徐にスマホを取り出すと、降谷さんは私がすっぴんなのもまるでお構いなしに顔を近づけてきて、得意の安室スマイルを浮かべるとインカメで写真を撮った。静かな部屋にカシャっと響き渡った電子音。そして何事もなかったように「今の写真送った」と一言。


「明日は行けないけど、これを親に見せといてくれ。婚約者って言えば納得してもらえるんだろ」

「っなんでそこまでしてくれるんです…?」


真っ赤になってるであろう顔を見られないように膝に埋める。

降谷さんの大きな手が頭に乗ったのがわかった。


「今の俺は独占欲剥き出しな事しか考えてないって、前にも言ったはずだ」



毎回、ほんとずるい人。そして毎回かなわない



2024.3.14



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露草