似た者同士A


「風見さん、よかったら今日飲みにいきましょうよ」

「断る」

「即答ですね。…吊れないなあ」

そう言って唇を尖らせれば向かいのディスクでキーボードを鳴らす風見さんが「だってお前酒弱いだろ」と呆れ顔で私を見た。

「それに降谷さんからなまえに酒は飲ませるなと言われてる」

「相変わらずの降谷信者ですね。別にすぐ眠たくなるだけで弱くはないです…………多分」

「話にならないな、少しは公安として勤めてる自覚を持て。酒に呑まれて自制出来ない人間は他部署に即移動だぞ」

「………言われなくてもわかってますう」

せっかく日頃のストレス…というか主に降谷さんの愚痴(この前の連絡先消された事件)とかをお酒でも飲みながら話そうと思ってたのに。
性格的に合わない部分も多い風見さんだけどどんな話でも真面目に聞いてくれるから良い人なんだよな。

それに……、

再びパソコンに目線を戻した風見さんを拗ねた顔してじっと見つめてみた。

「まあ………………仕方ないから、今晩飯くらいなら奢ってやる」

なんやかんやで彼は後輩の私に甘い。





溜め込んでた書類を片付けるのに思ったより時間がかかってしまった。
しかし今晩はタダ飯が食える!と急いで帰り支度を済ませ警察庁を後にする。

スマホを開いて先に退勤していた風見さんから届いたメールを確認すれば「この店で待ってる」という一文と共に駅近にある日本料理店の写真が添付されていた。…確かここは前々から降谷さんが行きたがっていた店だ。
風見さんもこの店興味あったんだ、なんて思いつつ歩くこと数分。店に到着し女将さんに案内してもらったその個室部屋には、

「随分と遅かったな」

まさかの風見さんの他に降谷さんの姿があった。

「あれ……………幻覚?」

「本物だ。駅の近くでたまたまポアロのバイトを終えた降谷さんとお会いしてな」

…………お誘いしたんだな、この降谷信者(二回目)め。なんて余計な事を。
となれば多分この店をチョイスしたのも降谷さんが行きたがってたからだろうし。

「俺がいたら、何か問題でも?」

「いいえ、とんでもない」

最大限の笑顔を浮かべ、降谷さんの向かいの座布団に腰を下ろす。
降谷さんの愚痴を聞いてほしかったのに本人いたんじゃ言えないじゃない。

「それにしても、お前達二人が食事の約束なんて珍しいこともあるな」

「はい、彼女に誘われて仕方なくではありますが」

「た、たまには食事でもして先輩に色々相談に乗ってもらうのもいいかなあっと思いまして」

「風見になら俺の愚痴も言えるしな」

そう言ってフッと鼻を鳴らしながら机に片肘をついた降谷さん。…全て見抜かれておりました。

「この前のアレ、まだ根に持ってんのか?連絡先消したやつ」

「…別に、元々連絡する予定もなかったので根には持ってませんが、プライベートの話だったので上司に首は突っ込まれたくなかったと思ってるだけです」

「俺はただ仕事中に男の写真を見ながらニヤついてる部下がいたから、当然の処罰をしたまでだと思うが?」

お互い表情は変えないまま、静かに火花を散らし合う。
降谷さんの妙に棘のある言葉に余計不満を覚えた私は、一旦頭を冷やそうと近くに置いてあったグラスの水を一気飲みした。

「ばっおま、それは…!」

「へ?」

「…………それは酒だよ馬鹿…」

心底呆れた声で呟いた降谷さんに、確かに後味苦いし明らかに水ではない事がわかった。
そして暫しの沈黙の中、「まあ一杯ですし、きっと大丈夫ですよ…」とフォローを入れてくれた風見さんの言葉を私は直ぐに裏切る事になる。





「おい、絶対寝るなよ」

「んっむり、眠たい〜」

「……………」

人はたった一杯の酒でここまで変わってしまうのかと、俺は少し怖くなる。
なまえが酒を誤って飲んでしまってから暫くして運ばれてきた料理。最初は普段通りの食い意地で黙々と箸を進めていった彼女だが次第に顔が赤くなり今では座りながら船を漕ぎ始めた。

「…………だからこいつに酒は絶対飲ませたくないんだ」

「…降谷さん。タクシー呼んで今日の所はもう帰しましょう」

「……そうだな」

やれやれと立ち上がった降谷さんはもう半分夢の中にいるであろう彼女に歩み寄り肩を揺らしてる。
閉じていた瞼を薄っすらと開き、降谷さんの姿を確認するなり彼女は寝言の様に静かに口を開いた。

「降谷さん………」

「なんだ」

「やっぱりこの前の、少し根に持ってます」


この前の、とはさっきの口論のきっかけにもなった話題か。


「せっかく園子ちゃんが教えてくれた好物件だったのに…よく考えたら惜しい事をしたなって今思いました」

「物件って、家じゃないんだからさ…。それにその感情は酒に酔った気の迷いだろ」

「私もそろそろいい歳です、結婚も考えろって田舎の両親にも言われてるのに…。もし今後その人みたいに私を好いてくれる人が一人も現れなかったら恨みますからね……降谷さんのアホ」

何かに取り憑かれた様に溜まっていたであろう不満を吐き出した後、彼女は完全に眠りに落ちてしまった。
そして固まったまま動かない降谷さんにてっきりお怒りなのかと思いきや、降谷さんは彼女の頭を優しく撫でながら言い聞かせる様にそっと囁いた。

「………じゃあそうなった時は、俺がお前をもらってやる」

前々から降谷さんとなまえは何処か不思議な関係だった。上司と部下というだけの関係でありながらお互いがお互い何処か干渉し合ってしまう。そのくせ口を開けばいがみ合ってばかりなのに。……降谷さんはとても愛おしそうな瞳でなまえを見つめ、そして次に俺に視線を戻した。


「風見」

「は、はい」

「この状態のなまえを一人でタクシーに乗せるのは不安だ。今日は俺の家に泊めるからお前も帰っていいぞ」

会計は済ませとく、そう言って彼女を抱き上げ座敷を後にした降谷さん。
降谷さんに限って酔った彼女をそのまま…なんて事はないと思うけど。


「明日……起きたなまえに殴られないでくださいね」


素直じゃない所は似た者同士なんですから。



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露草