「………じゃあそうなった時は、俺がお前をもらってやる」
朦朧とする意識の中、大きな手が私の頭を優しく撫でて心地良い感触と共に微かに声が聞こえた。
この声は、確か降谷さんのー…
「っ、」
ハッと目を覚ますと見慣れない天井が視界に写った。
カーテンの隙間から差し込む朝焼けが頭にズキズキ響いて、ゆっくりと身体を起こせば無駄に広い部屋の一角に置かれたベットで私は眠っていたらしい。
格好は昨日の仕事帰りのスーツのまま。ジャケットはご丁寧にハンガーにかけられていた。
「ここ……何処…?」
そして辺りを見回しながら警戒心を強めていると、ソファの上で毛布に包まってる金髪頭を見つけ私は全身の血の気が一瞬で引くのがわかった。
似た者同士B
昨日の私の記憶は、誤って酒を口にしてから運ばれてきた料理をいくらか食べた所までしか残っていない。
その後の記憶だけ見事に抜け落ちているのだが…、
「なんで私、降谷さん家にいるんですか…!?」
「…だから酔って寝落ちしたお前を仕方なく家に泊めたって言ってるだろ、何度も同じ事を言わせるな馬鹿」
叩き起こされて不機嫌MAXな降谷さんは動揺する私にかなり苛立たしそうな声色でそう言って寝癖のついた後頭部を乱暴に掻いた。
降谷さんの格好は私と同じくスーツのまま。…どうやら何も間違いは起こってないみたいだけど、
「間違いなんか起こるか、俺は断崖絶壁に興味ない」
「っ私だって顔しか取り柄のない男性なんかにちっとも心揺らぎません」
「せっかく介抱してやったのに酷い言いぐさだな」
「先に突っかかってきたのは降谷さんの方でしょう」
視線は一切合わせないまま、起きて早々会話のキャッチボールならぬ会話のドッチボールをする私達。
ただでさえ、たかが一杯の酒で頭イタイのに降谷さんといると余計に頭痛が酷くなる気がした。
「とりあえずさっさとその爆発頭を整えて支度しろ。出勤時間に間に合わなくなるぞ」
「……いや、でも昨日と同じ格好で二人揃って出勤するのは流石に…」
「安心しろ、俺は今日そっちには行かないから」
そっちには、って事は今日は例の組織の方にでも顔を出すのか…。
私は降谷さんの部下だけど、詳しくは何も教えてはもらえない。潜入してるのがどんな組織なのかも、降谷さんがそこで何をしてるのかも。………まあ、興味ないからいいけどさ。
「どうぞお気をつけていってらっしゃいませ」
「もっと感情を込めて言えよ…全く。田舎の両親にそろそろ結婚考えろって言われてんだろ?だったらまずは愛嬌を身につける事だな」
「…は?なんで降谷さんがそれを…」
「昨日自分のその口でベラベラ喋ったのを忘れたか?」
私の唇に人差し指を押し当てニヤリと笑った降谷さんに思わず身体が火照る。「余計なお世話です…!」てその指をへし折ってやりたいのに珍しく動けなくなってしまった。
「今回は俺の勝ちだな」
「ずっずるいですよ…!私が何も覚えてないからって!」
こうなったら意地でも昨日の記憶を…!っと頭をフル回転させていると「思い出しても羞恥にかられるだけだからやめとけ」って、本当酔った勢いで何を口走ってたのかな私は。
「あ、でも…朦朧とする意識の中で降谷さんの声が聞こえた気が…」
「………声?」
「降谷さん、私の頭を撫でながら何か言ってたんですよね…よく考えたらセクハラ行為だけど、あれって」
なんて言ってたんですか?と私が問いかける前に突然口を押さえられ、降谷さんは俯いたまま血を這う様な低い声で呟いた。
「………………それは全部夢だ。今すぐ忘れろ、死んでも思い出すな」
恐怖のあまり黙って何度も首を縦に降れば口を塞いでいた手が離れていって大きく息を吸い込む。
「俺は先に出る。鍵はここに置いとくから締めたらポストにでも入れといてくれ」
「あ、…はい」
そう言って身支度を光の速さで済ませると降谷さんはそそくさ家を出て行った。…金髪に隠れた耳が仄かに赤く染まっていた事、私は知らない。
「………死んでも思い出すなって、」
私が意識を失ってる間に一体何が…。後で風見さんにでも聞いてみよ。
そして、
「俺がお前をもらってやる……………って、なんで俺はあんな事口走ったんだ」
酔っ払ってたのはお互い様かって。
(あの、風見さん)
(俺は知らん。何も知らん)
(いや、まだ何も言ってませんけど)