※第四百七十訓ネタ
※ネタバレ注意
ダンプに跳ねられて、奇跡的に身体は無傷だったもののその衝撃で俺は一番大事なものを失った、自分の身体だ。
気づいた時には同時に轢かれた土方の野郎と身体が入れ替わっていた。
夢みてーな話だがこれは全部現実で。
俺は真選組副長土方十四郎として、あいつは万事屋の社長坂田銀時して、身体が元に戻るまで生活することになった。
正直、野郎の身体で生活すんのは色々と苦労の連続だった。
入れ替わってそうそう沖田くんに命は狙われるし碌なもんじゃねェ。
きっと俺の身体をした野郎も野郎で同じ事考えてんだろーけど、なんて思いつつ、俺はなんとかその日、一日をやり過ごした。
自分なりに適当に過ごしてただけなはずなのに慣れない身体で生活すんのはかなり疲れて、俺は布団を引いてすぐにバタンキュー。
疲れてる時の布団の温もりはほんとに気持ち良くて、すぐに眠りについた。
そして、それから暫くした頃、夜もだいぶ更けた時刻だろうか。
「土方さん…っ土方さん」
襖の向こう側から小さく土方の名を、今は俺の名を呼ぶ声が聞こえてきて目が覚めた。
誰だ、こんな時間に…。副長は睡眠もまともにとらせてもらえねーのかよ。なんて若干苛立ちを感じつつぼんやり目を開けると部屋の襖がゆっくり開いた、現れたのは寝巻き姿で枕を腕に抱えた女だった。
「…土方さ…ん」
か細い声で何度も土方と呼ぶ女。
……なまえちゃんだ。
真選組の女中であり土方の彼女であり俺の良き話相手であるなまえちゃん。
俺達は実はわりと仲が良かったりして。
でもできれば、この姿の時には会いたくなかったけど。
どう接していいかわかんねーから。
「……どうした、こんな時間に」
寝ぼけ目を擦りながら土方っぽくそう問いかければなまえちゃんはすこし気恥ずかしいそうに口籠って、
「あの…ね、眠れなくて」
「……あぁ、そういう時は羊数えるといいと思うぞ」
「いや、そうじゃなくて…だから、土方さん一緒に寝てくれないかなーっと思って」
ぶっ。
なまえちゃんのその台詞で眠気が一瞬にして吹き飛んだ。
「土方さんと一緒なら寝れる気が…」
「いいいいや、流石にそれはダメだろ!」
一緒に寝るってつまりはアレだろ?あはんうふんな…って中二か俺は!
「え…でも土方さん、この間はいいって布団入れてくれたじゃないですか…」
「この間の土方さんはこの間の土方さん!今日の土方さんとこの間の土方さんを一緒にしちゃいかんよ!」
動揺から自分自身も何言ってんのかわかんなくなってきたけど俺はとにかく添い寝だけは阻止しようと必死だった。
今の俺は見た目が土方なだけで中身は銀さん。そんな状態で同じ布団なんかで寝たらなんか変な気分になんだろ!俺が!
「とにかく、今日は一人で寝ろ!いいな!」
動揺を誤魔化すかの様に俺はなまえちゃんに背を向けて、寝る体制に入った。
俺の知ってるなまえちゃんはわりと聞き分けのいい子だ、きっとわかってくれる…なんて思ってたけど。
背を向けてから間も無く布団に何かが潜り込んでくる感覚がして、俺の腰に細い腕が回ってきた。
しかも背中にはなにやら柔らかい感触が…ってオイオイマジかよ、これって…!
「っなにして、」
「……土方さん、あったかい」
ぎゅうっと効果音がつきそうな勢いでなまえちゃんが後ろから抱きついてくる。
しかも甘えた猫みたいに背中に頬擦りまでしてきて、
「っ…ちょ、おまっ離れろ」
「今日の土方さん…冷たいですね」
「だから今日の土方さんといつもの土方さんを一緒にすんなって、」
「……意味、わからないです」
「だからっ…!」
後ろを振り向いたら目の前にはなまえちゃんの顔があった。
ほんのり赤く染まった頬に男を誘うような瞳、柔らかそうな唇。
しかもすこし乱れた寝巻きからは胸の谷間が覗いていて、俺はその光景を見て思わず息を飲んだ。
そんな俺を更に煽る様になまえちゃんは俺の寝間着の袖をくいっと引っ張って、
「土方さん…今日はキス、してくれないんですか?」
なんて言うもんだから俺は変な欲がむくむく沸き上がってくるのを感じた。
土方の野郎は毎晩こんな良い思いしてやがんのか…なんて妬ましい…じゃねーよ俺!しっかりしろ俺!
……でも、でもでもよく考えたら俺は今土方なわけで。
って事はキスくらいしても問題ねーんじゃないの。
元に戻るまで俺は土方を演じなきゃいけないわけで、って事は同時に俺はなまえちゃんの彼氏も演じなきゃいけないことになるわけで。って事はなまえちゃんの為にもここはキスするべきなのではないのか。
考えがどんどん自分の都合の良い方に流れてく。
でも、なまえちゃんへの罪悪感とそれは人としてどうなんだというギリギリの理性が俺を繋ぎ止めてる。
「土方さん…」
「……っ」
天使と悪魔が脳内で格闘を始める中、
そっと瞼を閉じるなまえちゃんに俺は言葉にならない声をあげ、そして俺は唇をそっとなまえちゃんに寄せ………。
********
「………よォ」
「………おぅ」
次の日、街中を歩いたら俺の姿をした土方と遭遇した。
「……てめェなんだそのツラは」
なんですげぇ隈できてんだよ、っと土方は俺の顔見て言った。
「…全部お前の彼女のせいだっつーの」
「…!てめぇなまえになんかしたのか!?」
「…してねェよ」
厳密に言えば、実際一瞬キスしようとした、だけどその前にギリギリの所で脳内にいた天使銀時が勝利して、俺は止まったのだ。
なまえちゃんは不服そうだったけどそのかわり「お前が寝るまで起きててやるから」っと言って頭を撫でたら嬉しそうに笑って大人しく眠りについた。
だがなまえちゃんが寝たのはいいものの同じ布団に女がいると落ち着かなくてその後は俺が全然眠れなくなって結局オールしたというわけだ。
「ってめぇ、なまえになにしやがった…!」
なーんて話は全然聞いてないであろう土方くんは俺の胸倉を掴み前後に揺さぶる。
寝不足の頭にはかなりキツイ刺激だ。
……あぁほんと、早く身体戻れ。
露草
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