*第二話



「ただい…」


家の玄関を開けると何処のフレンチレストランだってくらい良い匂いがした。
実は最近、毎日こんな感じなんです。





「おかえりなせェなまえさん」

「ただいま。沖田くん…今日のそれ…」

「今日はパエリア作ってみやした」


作ろうと思って簡単に作れるものだっけ。パエリアって。

机の上に並ぶとても美味しそうな夕食に、私はごくりと喉を鳴らした。



前までは炊事に掃除。洗濯機の脱水機能さえ知らなかった沖田くんが短期間で色々な事を覚え今ではこんな豪華な晩御飯を作れるようになった。若い子は吸収力がスポンジ並みとはよく言うが沖田くんはブラックホールか。



「いただきます」

部屋着に着替え早速優雅なディナータイム。
部屋もピカピカだし、洗濯物は綺麗に畳まれてるし…やばい。沖田くんずっと家に欲しいよ…なんて前とは逆のことを考える。
向かい合うように座り、あまりの美味しさに次々とお皿を空けていく私を沖田くんはただじっと見つめてた。


「よく食いやすね、太りやすぜ」

「ん、良いの!だって凄く美味しいから」

「そりゃどーも」

「けどさ、不思議なんだけど」


前まではルンバ欲しいとまで言ってた家事嫌いの沖田くんが、何故急にこんな好青年に有難いくらい成長してしまったのか。


「だって、仕事から帰ってきた時部屋が綺麗だとなまえさん嬉しそうだから」

「え?…うん、確かに嬉しいけど…」

「飯も美味そうに食ってくれやすし」

「…それだけ?」

「それだけ」


え、なにそれちょっとかわいい。

沖田くんのくせに(て言ったら失礼だけど)
いつの間にこんな懐いてくれたんだろう、従順でこわい。


「まあ、追い出されてまた家なしもつれえし」


サラダを突っつきながらぼやいた沖田くんの手に、絆創膏が貼ってあった。
…ブラックホール並の吸収力かと思ったが、どうやら彼も人間らしい。
家事をしないと部屋を追い出されると思ってるのだろうか。…そう思わせる様な態度、私しちゃってたのかな。



「別にいいよ、無理しなくても。」


洗濯物がぐちゃぐちゃでも漬物に白米だけの晩御飯でも。ルンバが欲しいとゴネられても(買わないけど)

たまに仕事の愚痴聞いて、帰ってきた時おかえりって迎えてくれれば私はまあ、満足である。


思わず、余計なことを喋ってしまった。
でも、家に帰って誰かが迎えてくれるのってやっぱり嬉しいもんで。
それを思い出させてくれたのは沖田くんなんだよってこと、それだけはわかっていてほしかった。

沖田くんの顔は見れず、動揺してスープを一気飲みしたら舌を火傷した。


「なまえさん」

「な、なに…?」

「なまえさんって結構ダメなタイプの女ですよねィ」

「はい?」


人がせっかく勇気を出して伝えた言葉にまさかの返事が帰ってきた。


「家に知らない男住まわせて、無理しなくていいよーなんて人が良すぎまさァだから処女なんですぜィ」

「まだそれいうか」

「…けどまあ、ありがとうごぜェやす」

「………」


沖田くんがスープを一気飲みして舌をおもいきり火傷してた。動揺の仕方が私と一緒で。ほんと、らしくない事は言うもんじゃないね、お互いに。


「水持ってきてあげようかあ?沖田くん」

「いらねえやんなもん、…それより、いい事考えやした」

「ん?」

「これからも今まで通り家事は毎日やりやすから、ご褒美として」


沖田くんが指先で、私の平たい胸を突いた。


「夜はなまえさんを好きにさせて下せえ」


脱、処女!と余計な一言を添えた沖田くんの指を掴むまであとすこし。



沖田くん、と暮らし




「今すぐ部屋を出て行くか今日からベランダで暮らすか、お好きな方をお選びになって」

「調子乗ってマジすいませんした」



おわり。つづかないです。笑

露草

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