その後、一人でのんびりお団子を食べていたらあっという間に日が暮れてしまった。
スーパーに寄って晩御飯の材料を買ってから足早に万事屋に帰ると、既に玄関の灯りがついていた。銀さん達帰ったんだ。
思いながら荷物も合間って軋む階段を上がり、扉を開けようとした。ら、手をかける前に何故か扉が勝手に開いた。
「わっび、びっくりした!銀さん?」
「おかえり」
「銀さんも今帰ったの?」
「いや、けっこー前」
「そっか、ただいま」
と、いうことは出迎えてくれた…のか?
見れば玄関には銀さんのブーツしか並んでない。神楽ちゃん達はどうしたんだろう。
銀さんに敬語を使うのをやめてからもう暫く経つ。だいぶ慣れたと思ってたんだけど、
「み、みんなは?」
「お妙んとこ」
「そっか」
うん。なんだろう、この絶妙なぎこちなさは。
私、というより珍しく銀さんの方が挙動というか何かがおかしい気がする。とりあえず家に上がったのはいいものの、どうしてピクミンみたいに私の後を少し空けてついてくるんだろう。
「もしかしてお腹空いた?今ご飯作るね」
「いや、飯つーか」
「空いてない?」
「腹は減ってる」
「じゃあ作るよ」
「腹は減ってんだけど」
ぐいっと突然腕を引かれてスーパーの袋が手から滑り落ちた。ジャガイモがコロコロ廊下を転がっていくのを横目に、気づいたら銀さんの腕の中にいて、力強く抱きしめられる。
「ど、どうしたの急に」
「…帰ったらいねぇし、ついに愛想つかされたかと思ったわ」
「出迎えられなくてごめんなさい。普通に買い物行ってきただけだよ?」
「ちげぇよ。別に用事あったら出かけてもいーし、忙しい時は出迎えもいらねぇ。ただどこ行くかくらいは言って」
「うん…ごめん」
心配して、くれたんだろう。腰を曲げて猫のように擦り寄ってくる銀さんのふわふわの髪が首筋に触れて、少しくすぐったかった。
「あと、沖田くんとそんな仲良い?」
「え、沖田さん?…仲良いの…かな?」
「なんで疑問系なんだよ」
「確かに働いてた頃からよく話はしたけど、仲良いかと聞かれたら…友達なのかもわからないし」
「そんな特別ってワケ?」
「特別というか…特殊?」
「仕事帰り…一緒にいるトコ見た」
銀さんのその一言を聞いて、初めて挙動不審だった理由がわかった。
「あれは、たまたま町で会ったから久々だしご飯行ってただけだよ」
「仲良くねぇと普通飯なんていかねーし」
「…確かに。じゃあ仲良いのかもね」
「………」
理由がわかってしまったら…どうしよう。可愛くて仕方がない。つい、煽るような事をわざと言った自覚はある。
腕を掴んでいた手が指に絡んで、強く握られたまま壁に押し付けられた。
見上げた銀さんの瞳が今までないくらい鋭く光っていて、自分から仕掛けたとはいえ思わずごくりと唾を飲む。
「やっぱりアイツらんとこ戻りてぇとか言っても今更帰さねえよ、俺」
「言わないよ。だって私は、」
銀さんが好きだから、言う前に唇を塞がれた。
いつもより荒々しくて息する暇もなくて、感情をぶつけてくるような、初めての感覚がする。
「なまえ俺には何一つ我儘言わねぇし、そのくせ沖田くんの前では今まで見た事ねぇ顔して話してるし」
「わがまま…言っていいの?」
「毎日黒毛和牛食いてぇとかなら死ぬ気で働いてくっから」
「ふふっ、なにそれ」
「他所行かれるよりずっといいだろ」
「…行かないよ」
銀さんも、不安になったりするのだろうか。
もしかしたら私が色々考え込んでいたせいで、不安にさせてしまったのかもしれない。
でも人間とは現金なもので、必死になってくれる銀さんを見たら余計な不安の虫も随分と大人しくなってしまった。
「銀さんもヤキモチ妬くんだね」
「ばっかオメー、俺はンな中学生男子みてぇなモン妬かねーつうの」
「じゃあ嫉妬?」
「ちげーって、これはアレだよアレ」
「最初のわがまま。素直に認めてくれたら嬉しいです」
「……オメー見かけによらずけっこーやり手だよな」
「そしたら銀さんのわがままも聞くよ?」
ピクリと肩が揺れた、…非常にわかりやすい。どうやら聞いてほしいお願いがあるらしい。
でもその前に、
「おかえり…って私、まだ銀さんに行ってなかったよね」
銀さんの瞳を真っ直ぐ見上げてそう言うと、力のこもっていた銀さんの手が明らかに緩んだ。
「…………そーいうとこ」
「え?」
「いや……ただいま。」
ぶっきらぼうな返事とは対照的に今度は優しく指が絡む。
再び近づいた距離が月明かりに照らされて、影が一つに重なった。
この先もそう簡単に自信なんてつかないし、神楽ちゃんや新八くんみたいに簡単に隣に並べるなんて思わない。
けど、それでも離れなくないと思うなら、私もその背中を追いかけ続けていたい。
ここを胸を張って、自分の居場所だって言えるように。
露草
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