とある学校の保健医と働きとして働き始めて早3年ちょい。
何度も辞めよう辞めようと思ってここまで踏ん張ってきたが、そろそろ限界が近い。
原因は去年転校してきたとある一人の生徒なのである。
「せんせ、また来てあげたよ」
「ぎゃあああ!血!すごい血!」
「保健医なのに情けないなぁ。大丈夫だよ、全部返り血だから」
「そういう問題じゃないっての!」
というか返り血なら怪我してないじゃん、と言うと「擦り傷すらないよ」とドヤ顔で返された。
違う、私が言いたいのはそう言うことじゃなくて。
「ここはね、怪我した人が来るとこだから。君じゃなくて君にやられた人達が来るところなんだよね」
「暫くは起き上がれないんじゃないかなあ。なんならアイツら死んでるよ」
「こわいって!じゃあ警察に自首して」
「ははっ、流石に冗談だよ。せんせーは面白いなあ」
そこらへんにあったタオルで適当に血を拭った後(おいまたそこら辺に放るな)私の食べかけだったお弁当を横から指で摘んでにこやかに頬張りだした神威くん。
よく人殴った後にご飯食べれるな、こっちは完全に食欲が失せたというのに。
毎日毎日何の因果でこんな目に…。いや折れちゃダメだ。今日こそは彼のペースに呑まれずしっかりと釘を刺さなくては。
「何しに来たの?本題はそこ」
「せんせーどうせ暇でしょ」
「暇じゃないよ、人の貴重な昼休憩を邪魔しやがって。毎日毎日迷惑なの」
「ひどいなあ。俺だって貴重な時間を割いて会いに来てあげてるのに」
「友達とか彼女とかさ、いないの?私なんかよりそっちに君の貴重な時間を使ってあげて」
「せんせーこそ去年彼氏にフラれて寂しんでしょ?俺が慰めてあげようか」
「待ってなんで知ってんの」
「ナイショ」
人が下手に出てればいい気になりよって…!
唇に人差し指を当ててなんとも憎たらしい笑顔の神威くんに手に持っていた割り箸がバキッと音を立てた。
「怖い顔するからファンデーションが割てるよーせんせっ」
「誰のせいだ誰の」
「ははっ、明日は唐揚げ弁当でよろしく」
「もう二度とくるな!」
都立夜兎工業高校、問題児しかいないこの学校に配属されて早3年ちょい。
どうか数日前に出した異動願いが、無事に受理されますように。
「みよじ先生、今日もお疲れですね」
「はい。…まあお陰様で」
もう陽も沈む頃、職員室に戻ると隣の海坊主先生に声をかけられた。
主に貴方の息子のせいです、と喉元まででかかった言葉を飲み込んで、最低限の作り笑いを浮かべ席につく。
「バカ息子がいつも申し訳ない。そういえば異動願いだされたんですってね。次の希望はどちらに?」
「ここ以外なら何処でもいいです」
とにかく今すぐ違う学校に行きたい。
そもそも喧嘩が本分みたいなこの学校の保健医が私一人な方がおかしい。毎日が繁忙期な上に貴方の息子が特段やばい、とも言えない。
「俺もかみさんしつこく口説き落とした口なんでね。学校変えたくらいじゃ諦めませんよ、神威は。まあみよじ先生ならうちの方は問題ないので」
「私が問題大有りです!もっと頑張って止めてくださいね!?」
「反抗期ってね、難しいんですよ…」
「貴方のバカ息子は反抗期ってレベルじゃないです」
結局言ってしまったがもうそんな事はいい。
高校生の気まぐれ、一時的なお遊びに付き合ってる暇も余裕もないのだ、こっちは。
「一度、そのバカ息子の誘いに乗ってみてはどうですか?」
「はい?」
「みよじ先生の気の強い反発的な態度、女らしからぬ所を奴は気に入ってると思うので」
「褒めてないですよねそれ。というかなにを根拠に?」
「親父の勘です」
「………」
外れたら許さないぞ、その親父の勘。
露草
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