なまえは俺より7つも年下。

ただあんまり大きく差を感じないのは断じて俺の精神年齢的なもんが低いんじゃなくて、あいつが年のわりに落ち着いてるってだけ。
おまけに顔もけっこー可愛いし、俺のことほんとに好きなの?って聞きたくなるくらい束縛もしてこねえし。

成り行きで付き合うことになって、なんなら俺の方がそんな歳の離れたカノジョに束縛したいくらい夢中になるなんてこと、あるわけねえって

思ってたんだけどね?


「銀ちゃん、なまえ今日は遊びに来れないって。さっき電話あったヨ」


いつもより早く目が覚めて、着替えて襖を開けるなり神楽が声をかけてきた。
テーブルに朝飯の残骸があったがいつもより卵の殻が少ない気がする。
こいつはやたらとなまえに懐いており、お妙と同じように慕っている。
なまえにいじってもらって普段と違う髪型をした時はやたらとどっか連れてけって強請られるから正直めんどくせえ今日この頃。


「…そ。理由は?」

「知らねえヨ。忙しいみたいですぐ電話切れたネ。気になるなら自分で聞けもじゃもじゃ」

何食わぬ顔して聞いたら、ゴミでも見るような視線を向けられた。
…随分と機嫌悪ィな。なまえが来んの昨日の夜から楽しみにしてたから無理ねえか。
同時にこれまたどことなく元気のない定春を連れて神楽は万事屋を出て行った。

あいつ、どーやってこんなに手懐けたんだ。もれなく犬まで。

まあ俺は?あいつらとは違って少し残念くらいだけど。
今日は夜、神楽は新八の家で鍋パーティーするって言ってたし、二人でゆっくりできるなあってちょっと期待してただけ…いやまじで。

…暇だし、パチンコでも行くか。





真選組で女中のバイトをしているなまえ。初めて会ったのは大江戸スーパーで、籠いっぱいにマヨネーズを買い込む姿を見て嫌な青筋野朗の顔がチラついた記憶がある。
あいつらに混じって何度か顔を合わせるうちに神楽が先になまえと仲良くなり、万事屋にも度々顔を出すようになってから暫く。

ババアんとこで一緒に晩飯食って、家まで送るとなまえに原付のヘルメットを渡した時に「坂田さん」とぎこちなく名前を呼ばれた。


「あの、こんなこと言ったら困らせるかもしれないんですけどっ」

「なに?もしかしてメット臭かった?」

「ち、違います!」


ぶんぶん首を振るなまえをじっと見たら初めてちゃんと目が合った。顔を赤くしながらヘルメットを深く被って見えなくなった表情になんとなく、今から言われることだいたい予想はついちまったが。

黙って続きを待った。


「坂田さんからしたら20歳って、子供ですか?」

「まあ、ガキってほどではねえけど」


神楽のがなまえと歳近いと思うと、なんか複雑な気分にはなる。
見た感じまだ恋愛経験少なそうだし、屯所にいんのはドSかマヨラーだし?近くにいる男前の俺がやたらと輝いて見えちまったのは至極当然かもしれないけどさ。


「す、好きです…!さかた、さん」


「…いっときの感情とかじゃなくて?それ」


20歳なんてやたらと年上に憧れる時期、今は恋愛感情があったとしても暫く付き合って現実見たら夢もすぐに醒める気がする。…それぐらいの歳の差だろ、7歳って。

我ながら意地の悪い聞き方だとは思った。


「一時的かどうかは付き合ってみて、坂田さんが判断してくれませんか…?」

「いやいや。中途半端に手なんか出したら俺、神楽に殺されるから」

「でも…そうしてほしいです。私っどうしても坂田さんが好きだから…」


単純に、そう言った時のなまえがやたらと可愛く見えちまって。一瞬渋ったくせして気づいたら付き合うことになっていた。

その日から始まった関係はまあなまえの気が変わったら終わり、くらいに思ってたけど。気づいたら軽く一年ちょいが経ち。

なまえは俺のこと好きだと言ったあの日から何も変わらず。今も会う度に、にこにこ嬉しそうな顔しちゃって。
なんなら最近では坂田さんから呼び方を銀さんに変えて。昔より余所余所しくもなくなった。

そんななまえと長いこと過ごすうちに変わっちまったのは俺の方。

前までは独占欲つーの?野朗と二人で肩並べてたって全く気に留めなかったはずなのによォ。


「よお」

「あ、銀さん!」


パチンコに向かう途中、前方に見知った人影が見えて。
よく見たらドS野朗と一緒に歩いているなまえで迷わず声をかけていた。


「偶然ですね旦那ァ、キャバクラ行った帰りですかィ?」

「人聞き悪いこと言ってんじゃねーぞクソガキ。パチ…定春の散歩だっての」

「旦那、肝心の定春くんの姿が見当たりやせんが」


んなことはどうでもいいんだよ。

ドSはスルーしてこっちを見てぺこりと軽く頭を下げたなまえに向き直る。


「ごめんなさい、今日行けなくなっちゃって…。欠員が出ちゃって買い出し行けるの私しかいなくて」

「気にすんな。神楽のやつ拗ねてたからまた暇な日遊びこいよ」

「拗ねてんのはチャイナだけですかィ?」

「マジでちょっと黙っててくんない?」

横から余計なことばっかぬけぬけと。
しかもなんで買い出しにこいつがついてきてんだよ人足りてるじゃねえか税金泥棒、なんて言ったら余裕ねえみたいだから言わねーけどな!

仲良くスーパーの袋一個ずつぶら下げちゃって新婚気取りかあ?このやろう。


「なまえさん、今日の晩飯はオムライスでしたよね?楽しみでさァ」

「え?あ、あれ…そうだっけ?」


カレー…じゃなかったっけ、と首を傾げるなまえを他所に当てつけのようにニヤニヤこっち見ながら歩き出した沖田くん。

俺と野朗を交互に見ておろつくなまえの頭を「またな」と撫でた。
急いで沖田くんの後を追いかける背中をまあ面白くない気持ちで見送ったら、なまえが足を止め方向転換して戻ってきた。


「どした?」

「あのっ銀さん!よかったら、急いでバイト終わらせるから夜…万事屋行ってもいいですか?」

「いいけど、夜は神楽いねーぞ」


言ってから、じわじわ顔を染めて口篭ったなまえに超絶鈍いこと言ったとすぐ気づいた。


「…なら、遅くなると危ねえし終わったら屯所まで迎え行く」

「大丈夫です!最近遅くなった時は沖田さんが車で家まで送ってくれてて…」


今日は万事屋までお願いするので、っと言ったなまえに先程の憎たらしい顔が浮かんでかなりイラッときたが食い下がることもできず。


「…待っててくれますか?」


そんなことどうでもよくなるくらいには、柄にもなく夜が楽しみになっちまった。



露草

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