定春の散歩から帰ってきた神楽には悟られないようにして、日が暮れる前に新八の家に追いやることにした。

「明日は仕事ねーから、帰ってくんの昼過ぎでもいいぞ」

「仕事ないのはいつものことネ。女連れこんだらなまえのかわりにボコボコにするからな天パ」


そのなまえがくんだよとは言わねーけど。
最悪、みんな仲良くここで鍋パーティーになるから。今日だけは勘弁。

まだかまだかと普段見ない時計ばっか気にして、いい加減読み飽きたジャンプを床に放った頃にインターフォンが鳴った。
ソファから飛び起きて、だけど玄関を開ける時には何食わぬ顔で。


「おう、お疲れ」

「お待たせしました!バイトは早く終わったけど沖田さんがここに来るまでに何度も道、間違えちゃいまして」


いや、それ絶対わざとね。

できれば気づいて警戒してほしいわ頼むから。


「寒いだろ、早く中入れ」

「お邪魔します」


ふわり、戸を開ける俺の横を通ったなまえからいつもとは違う香りがして顔を顰める。


「…もしかして風呂入ってきた?」

「はい。動いて少し汗かいたから屯所のお風呂借りてきちゃいました」

「ふーん…」


羨ましいくらいサラサラの髪を指先に絡めながら、俺の声のトーンが下がったことに気づいたなまえが少し不安気な顔して問いかけてきた。


「ダメでしたか…?」

「だめじゃねけど………ダメだな。もう一回風呂、うちで入れば?」

「ええ!?もしかしてまだ汗くさいですか?」

「汗つーか」

におうよ。昼間に会ったやな顔を思い出す匂いがぷんぷん。

同じ風呂使ってるし無理もねえけどさ。眉間に皺が寄るくらいには嫌。


「なんなら一緒に入ってもいいけど」

「っ!いいです、一人で入ってきます!」


不安そうな顔したり赤くなったり面白いやつ。全部俺のせいなんだけど。

逃げるように脱衣所へと向かったなまえを見送って、風呂に入ってる間に洗濯機に着流しをかけといた。

つけてるだけのテレビを流し見してたら暫くして、遠慮がちに居間の扉が開く。


「お風呂、いただきましたー…」


濡れた髪を高い位置で結い上げて、はるかに大きい俺の着流しに袖を通したなまえに彼シャツ…ではねーけど唆るものがある。

少なくとも俺の独占欲は簡単に満たされちまった。


「髪、乾かしてやるからそこ座れ」

「…もう臭くないですか?私」

「最初から臭ってねえよ。男にはね、色々事情ってもんがあんの。

早く乾かさねーと風邪引くぞ」


テレビを消してドライヤーをセットすると、なまえが隣に座って背を向けた。
髪を解く前に一瞬見えたうなじは思わず牙を立てたくなるくらいには綺麗で、こんなとこに痕なんかつけたらいくつも年下のこいつに大人気ねえって思われっかな。

考えながら指通りいい髪を温風に靡かせた。


「なまえってほんと髪さらさらなのな、羨ましいわ」

「直毛で巻いてもすぐとれちゃうんです、だからあんまりオシャレがきかなくて」

「嫌味かコノヤロー言ってみてえわそんな台詞」

「なんで?私は好きですよ、銀さんのふわふわの髪の毛」


わたあめみたいで撫でくりまわしたくなっちゃう。なんて可愛いこと言っちゃって、お望みなら今晩いくらでもどーぞって感じなんだぞこちとら。

静かな部屋にドライヤーの音が響いて、一頻り乾いたところで電源を切ってなまえを見たら目つきがやたらとろんとしてた。


「もしかして眠い?」

「朝早かったから…少しだけ」

少し…つーわりに目え赤いし喋るのもやっとって感じだけど。
ここに来んのに仕事も頑張ってくれたみてえだし、無理強いはできねえな。
涙を飲んで急いで寝室に布団を2枚引いてなまえを誘導した。


「今日は先寝てていーから。俺も風呂入ったらすぐ寝るし」

「え、っいやです」

「いやって、眠いんだろ?疲れてんだし無理すんなよ」

「だって、せっかく銀さんと二人っきりだから今日は色々…っ!」


自分で言ってはっと我に返った表情をされたが、俺の耳には入っちまったからもう遅い。

悪いけど、こういう時に照れたなまえに詰め寄るのが一番たのしい。そういう性分。


「色々って?具体的にはナニする予定だったのなまえちゃん。教えてよ」

「し、知らないです…!なんで急に近寄ってくるんですか!」

「なんでって、ねえ?」


期待には応えないとだし?

逃げるなまえを壁際に追いやって、その場にへたり込んだところに畳に手をついて顔を覗き込むように近づける。

「自分から言ったくせに、なんで逃げんの?」

「っ銀さんが、すごいせめてくるから」

「だってそうしないとなまえに手、出せないじゃん」


ドギマギしちゃって、いつまでもウブでかわいーじゃないの。なんて言ったら怒らせそうだけど。
そういう反応がまたS心に刺さること、いい加減気づいたほうがいいと思う。

じゃないと何度でもこうなるから。

啄むようなキスをしながら逃げられないようになまえの細い手首を掴んで壁に押し当てる。
舌先が触れ合ったとこで薄ら目を開けたら長いまつ毛に小刻みに震える瞼が見えて、悪いけどもっともっといじめてやりたくなって。

どさくさ紛れに解いたなまえの帯を畳の隅に放り投げ、緩んだ胸元にもはや羽織ってるだけの着流し姿は…素直に興奮したのと、


「…なんか、」


すげえ悪いことしてる気分。
食べられる前の子うさぎ見てるみたいで。

俺の動きが止まった隙になまえが色々と見えかけている着物を直そうとしたから、すかさず合わせ目から滑り込ませた右手で内腿を上下に撫でた。

わかりやすく跳ね上がった肩に口角が緩むのを我慢できない。


「なまえってここ弱いよな…このほくろあるとこ、触られんの」

「だって手つきが…っやらしくて。ゾワゾワしますっ」

「ゾクゾクじゃなくて?やらしー気持ちで触ってんだから当たり前でしょーよ」

「っや、くすぐったい」

「やめてほしいならやめるけど。…どうする?」


答えなんて最初からわかってんのに、それでもなまえの口から言わせたい。赤くなった耳元に唇を寄せたら着流しを弱々しい力で掴まれて、ついでに耳たぶに噛みついてみたら今後は手に力が篭って俺の肩から着物がずり落ちた。

「っ…やめないでいいです、

銀さんの好きにして、ください」

目は伏せたまま、掠れながらも確かに耳にとどいた言葉は自分から聞いたくせに破壊力は抜群で。
 

「…どこでそんな誘い文句覚えてきたの」

「ど、どこでって銀さんがっ…」

「そーいうこと言われるとさ、」 


俺の行動一つで乱れていく姿を愉しんでたはずなのに。今度は俺のがなまえの言葉一つで年上の余裕とか大人の意地とかそんなもんどうでもよくなっちまって。


「今日、あんま優しくできねえかも」


気づいた時にはいつも、理性なんて残ってない。

露草

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