言っちゃった言っちゃった言っちゃった。
坂田さんに自分から、
「一緒に寝室で寝るのはどうですか?」
って。
今日は坂田さんの様子がどことなく可笑しかしかったから、断られるかもって不安だったけど「その手があったか」って案外すぐ了承してくれて。押入れで寝る方が珍しくないかな?とは思ったけど言わなかった。
坂田さんはその後すぐお風呂入りに行って私は先に寝室へ。二つ並んだ布団の上で背筋伸ばして正座した。
坂田さんと付き合い始めてちょうど一年。
お泊まりは今日が、初めて。
田舎から江戸に上京してきてすぐ、高い時給に釣られて女中のバイトを始めた。憧れの都会暮らしはやっぱり理想通りとはいかず日々歌舞伎町の洗礼を受けながら生活してた時、坂田さんに会った。
副長こと土方さんにマヨネーズを買ってくるように頼まれ向かった大江戸マート。
大量のマヨを籠に詰めてると周りからの視線がやたら痛くて、やっぱり私が世間知らずなんじゃなくて江戸でもこんなにマヨネーズ買う人珍しいんだと思った。
目立たないように足早にレジへと向かう途中、やたらとふわふわした綺麗な銀髪が目について思わず足を止めた。
「おねーさん、そのマヨネーズさ」
「へっ、私ですか?」
じっと見すぎたかな。声かけられると思わなくてびっくりした。
「一個譲ってくんない?売り切れになってて、今日俺ん家タコパだからないと困んのよ」
「…あ、すいません!ど、どうぞ」
買い占めちゃったからか、申し訳ない。
…私が使うと思われたらやだな、けどこの人は私の籠見ても他の人みたくあんまり驚いた様子がなくて。
「サンキュ、これで神楽にドヤされなくて済むわ」
差し出したマヨネーズを受け取って薄く笑ったその人、坂田さんに初めて漫画でしか読んだことない一目惚れという感情を知った。
名前も歳も知らないしまた会えるかもわからないって思ってたけど有難いことにその後何度か接点があり好きで好きでしょうがなくて告白してちょっと粘ってOKをもらった。
付き合い始めの頃から坂田さんは私のことなんて女として見てないんだろうなって感じて。彼女というより子供を相手にしてるような扱いを受けることもあった。それでも一緒にいられたらその時はただ、満足で。
もしかしたらこれから好きになって、意識してくれるかもなんて淡い期待もあったから。
でも、一年が経っても現状は大きくは変わらず。
前より一緒にいる時に笑ってくれることが増えたとは思う、新八くんや神楽ちゃんがいない時、隙ををみてキスしてくれたこともあった。数える程度だけど。
でも、やっぱり人間はよく深い生き物だから。もうそれだけじゃ満たされない。坂田さんに好きになってほしい、もっともっと私のこと求めてほしいって、わがままになってく。
今までそーいう雰囲気になったことは一度もない。でも、だからこそ今夜は、せっかく隣同士で寝るし少しでも距離を縮めるチャンスなわけで。
神楽ちゃんが居間にいるから最後までとは行かずとも、私も女だってこと。坂田さんに意識してほしい。
もし勢いずいて押し倒されでもしたらその時は、
「…何してんの?」
「っ、しゃかっ坂田っさん」
突然襖が開いて舌噛んだ。
脳内で私を押し倒してた坂田さんは、現実では枕を強く抱きしめながら悶絶してた私を好奇の目で見てくる。
お風呂上がり、いつもの着流しとは違って初めて見る寝巻き姿。やっぱり何着ても輝いて見えて眩しい。
「大丈夫か?わかりやすく噛んだけど」
「だ、大丈夫ですっ、お気になさらず…」
ほんとはめっちゃ痛い。
「見せてみ?…あーあー血ィついてんぞ」
「っ、」
屈んで目線を合わせてきた坂田さんに真っ直ぐこちらを見ながら突然唇を指で拭われて、思わずびくりとわかりやすく体が跳ねてしまった。同時に坂田さんも固まった。
気持ち悪い反応しちゃった。顔に熱が集中して自分が今どんな表情で坂田さんに映ってるのか、どうしても不安になる。
私にとって坂田さんが全部初めてだから。
「………寝るか」
「えっ、寝る…寝るんですか?」
思わず二度聞いた。
ここであっさり寝られたらいよいよ恋人としての立場がない。
そんな私の心情などつゆ知らず、「おやすみ」と一言。何事もなかったように布団に入っていった坂田さん。
自分だけ期待してドキドキして、馬鹿みたいに思える。けど、今日はこっちも簡単には引けない。
「いや、なにしてんのお前」
「わ、私も…寝ます!っここで」
「っ自分の布団あんだろーが、なんでこっち入ってくんだよ」
「っだって、」
私に背を向けるように寝転んでた坂田さんの布団に潜り込んだ。眉間に皺を寄せながら険しい顔されてなんだか、泣きたくなった。
好かれてなくても嫌われてさえなければ。そんな思いでいたけどなんだかもう自信がない。
坂田さんは思ってること普段口にしないし、私はそれで気持ちを汲み取れるほど大人の女じゃないし。言葉で、態度で示してくれないとわからない。
でもそんなこと言ってあっさりフラれたら、またガキって思われたらってずっと我慢してた。
「私、坂田さんが好きですっ。だから、これ以上嫌われたくないから、教えてください。…坂田さんの考えてること」
掠れるような声でも静かな寝室にはよく響く。
しっかり耳に届いたところで、向いていた背中を反転させこちらを向いた坂田さん。
「誰が嫌いなんつったよ」
「っ嫌いじゃないですか?」
「…簡単に嫌いになれねえから、こっちだってこんな苦労してるんだろーが」
険しい顔のまま布団を剥いで、私の顔の横に両手をつき、気づいたら坂田さんが上で四つん這いになっていた。
さっき妄想したような展開ではあるけど。なんだか甘い雰囲気とはちょっと違う気がして、思わず息を呑む。
「知りたいつーなら教えてやろうか?俺が今まで考えてたこと全部」
サイズが合わなくて緩い寝巻きの裾から忍び込んできた坂田さんの無骨な手が私の太ももをなんとも言えない手つきで撫でて、
「んッ!や、さかたさっ…」
「…ここ、ほくろあんだ。」
「っな、なななに言ってるんですか」
「いや、イイコト知ったなーと思って?」
自分でも知らなかったのに!
真っ赤になる私の反応を見て、坂田さんの顔が一変してなんだか意地悪そうに細められた瞳にさっきとは別の意味で体に緊張が走る。
「少なくともここ最近の俺はずっと、なまえにこーいうことすることしか考えてなかった。って言ったらどうする?」
「なっ、だって…っそんな素振り、見せなかったじゃないですかっ」
「当たり前だろ。年下の女にンながっついたらこえーだろうよ」
気を、使ってくれてたってことなのかな。
全部はわからないけど、少なくとも今目の前にいる坂田さんが私を女として意識してるって事は身をもって理解した。
「で?」
「…で?…えっと、で?とは?」
「なまえがいいってなら、続き。したいんだけど」
聞かなくてもわかってるはずなのに、私の目を見ながら探るような質問してくるとこ。…坂田さんはやっぱり意地悪な気がする。
「…私も、したいですっつづき」
「…そ。なら遠慮しない」
「…ん、ふっ…んっん…っ」
初めて、噛み付くようなキスがたくさん降ってきて息ができない。空気を求めて薄く唇を開いたらぬるりと入ってきた坂田さんの舌が、中を無茶苦茶に掻き回す。
太ももの次に坂田さんの手が上がってきて脇腹を伝いながら胸元へと伸びてきた。
「っん、や、ん…っさ、かたさん…そこはっ」
「神楽いるから声、我慢して」
っそんなこと言われても。下唇を噛み締めながら押し殺すように耐える私に対して、坂田さんはなんだかすごく楽しそうだった。
坂田さんの指が素肌に触れるたび、ゾクゾクと背中に電気が走ったみたいにおかしくなる。
息遣いに、匂いに、眼差しに、全部に頭がクラクラする。
坂田さんってこうやって触るんだって、体の奥がたまらなく疼いた。
「………なまえって、」
「っんぇ…?」
不意に手が止まって、顔を上げて坂田さんを見る。
顔が熱くて力が入らない、思わずとろんとした締まりのない表情になってしまう。
「いや…そんな顔、できんだなって思って」
「…っへ、変でしたか…?」
「変つーか………………興奮する」
少しの間の後、坂田さんの口から出た言葉は聞き間違いではない気がする。
「まだ、今ならギリギリ引き返せなくもないけど。どうする?」
また私の顔色を伺うように聞いてきた坂田さんに、今更後戻りなんてできるはずもないのに、
「ぎ、…銀さん」
「え?」
「…銀さんって、呼んでもいいですか?」
「別にいーけど…」
少し照れ臭そうにそう言った銀さんに、私もちょっと期待してもいいのかな、なんて思って。
「銀さんのものに、なりたいです」
不安な気持ちは何処へやら。
この先の日常が、もっともっと楽しみになった。
(人の気も知らねーで、マジで末おそろいし女だなこいつ)
*少し早いですが、今年も一年本当にありがとうございました。
2024.12.20 🐝
露草
前 もどる 次