年下彼女に本気になっちゃう を先に読んだ方がわかりやすいです

「坂田さん」


最近、その声に呼ばれるたびふと思う。こいつはいつまで俺のことそーやって他人行儀に呼ぶんだ?って。


「…さ、坂田さん?」

「聞こえてないヨ。銀ちゃんも歳だから耳遠いネ」

「誰が歳だ、ちゃんと聞こえてるつーの」

「なまえとわたしから見たらもう充分おっさんアル」


少し、いらねえこと考えてた。

神楽の不意のおっさん発言がなかなかに今の俺には刺さりつつ。
「どした?」となまえの方を見る。


「明日もバイトあるので、今日はもうおいとましようかなと思って」

「えーいやアル!一緒に晩御飯食べようよぉなまえ」


今日は昼に遊び来て、神楽と定春の散歩行ったり休みだってのにうちの家事手伝ったり。
挙句に夕飯の買い出しに行く新八にまで付き合おうとしたからそれは止めて今は万事屋に三人と一匹、そろそろ日が落ちてくる時間だ。

ここでこうやってなまえと過ごすのもだいぶ日常になった。
誰かさんのせいで二人きりの時間なんてもんはかなり限られてはいるが。

ガキみたくごねながらなまえの胸元に飛びつく誰かさんこと神楽の頭を掴んで引き剥がす。俺だってまだ触ったことねえんだぞコラ。


「飯くらい食ってけよ。新八もすぐ帰ってくるだろうしそこまで遅くなんねーだろ」

「でも暗くなっちゃうと、また送ってもらうの申し訳ないから」

「ンなことお前は気にしなくていーの」

「じゃあ今日はうちに泊まればいいアル」

「え」

「そしたら全部解決ネ!いいよネ?銀ちゃん」


神楽となまえの視線が同時にこっちに向く。

確かになまえん家よりうちのがあのいけ好かねえ屯所は近いから朝は出勤しやすいだろうけど。問題はそこじゃない。…率直に言う、いいわけねーだろ。

付き合い始めの頃はまだ二十歳のこいつをどうこうする以前に、そんな欲求すら湧かねえかもなんて余裕ぶっこいてた。
顔は可愛いけどスタイルは特別良いわけじゃねえし俺はもっと上にも下にも脂の乗ったぷりぷり体型の方が好きだし?

それにいつまで続く関係かもわからないのに下手に手を出すのはお互いの為になんねえだろって。

完全に舐めてたわけだけど。

日が経つにつれちょっとずつ女らしくなるなまえに、俺の言行一つで表情がころころ変わるなまえに実際は不覚にも手を伸ばすか何度も葛藤したことがある。

困ったモンで最近はなんだか前よりもずっと可愛く見えちまって素直に、ムラムラする。

よって泊まりなんかしたら自分がどこまで我慢できんのか全く自信がないワケで。


「坂田さん?」

「あーあまた固まっちゃったアル。もうほっとくネ、今日は一緒にお風呂入ろうヨなまえ!」


かと言ってそんなこと本人の前で言えるはずもなく。
またなまえにしがみついた神楽に「好きにしろ」と言ったのは最早男の意地である。







「おい、起きろ神楽。こんなとこで寝るなよ」

「もう食べれないアル…」

「なまえと風呂入るんじゃなかったのかよ…ったく」


四人で食卓を囲んで食ってはしゃいで散々暴れた後、神楽はそのままソファで寝落ちした。
こうなるとなかなか起きないから今日はこのまま寝かせることにする。せっかくなまえが泊まりにきたのにって明日文句言われるだろうが今無理に起こしても俺の身が危ないから結局同じこと。

寝室から持ってきた毛布を被せたとこで、居間の扉が開いて片付けをしてた新八となまえが戻ってきた。


「あれ、神楽ちゃん寝ちゃいました?せっかく今お風呂入れたのに」

「もう起きねえだろうからなまえ、先入ってきていいぞ」


俺の寝巻きを渡して脱衣所に案内すると後ろからくいっと着流しを引かれた。


「今日…泊まっちゃって大丈夫でしたか?」

「なに、やっぱ帰りたくなっちゃった?」

「違くて、坂田さん今日ちょっと様子が変だな思ったので」


…変だよ、今日どころかここ最近ずっと。
全部なまえのせいなんだけど。


「外冷えるし、今日は遠慮しねえで泊まってけ」


不安そうにこちらを見上げてきたなまえにどことない後ろめたさを感じて、誤魔化すようにバスタオルを顔に押し付けてやった。

脱衣所の戸を閉め浅く息を吐くと廊下で盗み見してたであろう新八と鉢合わせして、頬を染めながらやけにぎこちない動きで肩を叩かれた。


「今から帰ろうかと思ったんですけど。

…神楽ちゃんも一緒に家、連れて帰った方がいいですか?」

「そんな気遣いはいらねえ」


童貞のくせに一丁前に空気読みやがって。

遅くなる前に帰れ、と新八を家から追い出し居間でやたらでかい神楽のいびきを聞きながらなまえが風呂から出てくるのを待った。

良い年して彼女がうちに泊まりにくるだけでなんで俺がこんな葛藤しなきゃなんねえんだ、元凶は爆睡してるし。どいつもこいつもよォ。

つーかこれ、神楽がソファで寝てたら俺たちはどこで寝んだ?

いつもは押入れの下を使ってる定春も、今日に限って神楽の向かいのソファで寝てて俺が寝床にするはずだった場所は完全に占拠されている。

ほんとは神楽となまえを寝室で寝かせるつもり、だったんだけど。



「坂田さん、お風呂ありがとうございました」

「…おう、俺も入ってくる。

寝室の布団好きに使ってくれていーから。俺、今日はあそこで寝るから」

「え、あそこって…押入れ?」


仲良く並んだ布団で寝るのは勘弁。
だったら猫型ロボットになった方が幾分マシだという結論に至った。


「いやいやじゃあ私が押入れで寝ますよ」

「いやいやそこ狭いし、身体痛くなるから」

「じゃあより家主を差し置いて私だけ布団で寝れないです」

「いやいーって気にしなくて。家主って柄じゃねえし家賃も碌に払えてねえからさほんと」


どこぞの芸人みたいなフリで言い合ったわりにお互いどうぞどうぞとはならず。

話が脱線してきたところで、意外に頑固ななまえが「一緒に寝室で寝るのはどうですか?」なんてそれが出来たら苦労しない一番避けたかった提案をしてきた。

意地でも動揺を見せたくなかった俺はさもお前天才?みたいな顔で「その手があったな」なんて言っちゃって。普通はその手しかないだろ押し入れで寝るなんつー方が不自然極まりないわというツッコミは聞きたくねえ。

その後すぐに風呂へと向かって、あまりの不甲斐なさに湯船に沈んで溺れ死ぬかと思った。

怖がらせたくない、嫌われたくない。意識し始めたら最後、そんな理由で手が出せないなんていい歳こいてヘタレか俺は。

いつかなまえの気が変わったら終わり、こっちは後腐れない前提で付き合い始めたはずなのにもし、ほんとに今更別れてほしいなんて言われたら?

俺ァ手放せんのか、あいつのこと。


そんなこと考えてる時点でな気もするが認ちまったら負けな気がする。
まだ、あいつの前では大人の余裕をかましていたいから。
今日もンな感情は垢と一緒に水に流して、風呂を出た。

露草

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